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今回は災害を受けてから地域が立ち上がり,振興を遂げるまでの行程で歯科医師には何が必要とされるのかについて考える。「救護」「復旧」「復興」までを住環境に置き換えると,「避難所」「応急仮設住宅」「復興支援住宅やもとの住居地の再建」となる。 では,歯科で言えば,どのようになるだろうか?
救護・・・応急治療対応,要介護者への口腔ケア
歯科における救護は何をおいても,まずは災害で外傷を負った人への対応となる。被害の著しかった地域においては,建物被害や電気・水道・道路といったインフラの断絶により,歯科医療救護所の設置が必要になったり,稼働できる地域への搬送が必要となったりする。
では,実際に災害時に受け入れた患者の外傷率はどうであっただろうか。阪神淡路大震災の病院歯科(7医療機関,震災発生後20日間)で22.6%,歯科医療救護所(震災発生後2カ月間)で2.3%,巡回診療(震災発生後2カ月間)で1.7%のみであり,東日本大震災でも福島県いわき歯科医師会において震災発生後4日目からの20日間で救急歯科診療所に受け入れた324名のうち外傷者は4名(1.2%)と,必ずしも歯科医療者が予期するほどには高くない。
一般的には,歯科医療救護所が設置されるような場合は,甚大な被害をもたらす激甚災害と思われるが,歯科単独の外傷はむしろ少ないと考えられる。反面,歯性感染症や口内炎,義歯不適合など歯科固有の対応が必要な疾病は,どの災害においても初期に多く発生しているので,地域の歯科医療機関が再開できるまでは歯科医療救護所は設置しておき,稼働させながらニーズの変化をみて閉鎖時期を判断していくべきであろう。もちろん交通が寸断されているよう場合は,巡回歯科診療班を編成して避難所などを巡回することも必要である。
一方,特に要介護者に対する口腔ケアは,誤嚥性肺炎の予防という観点から,救護に入ると思われる。したがって,いざという時のためにも口腔ケアは日常臨床において継続的に行っておくことが肝要である。療養型医療施設に入所しているような,日々の口腔ケアが必要な方々は,災害時に口腔ケアを中断してしまえば,1週間以内にはまた誤嚥性肺炎のリスクが高い状態に陥ってしまうと思われる。
災害時には,要援護者であった人が要介護者になる,とも言われている。広い自宅で暮らし遠くまで買いものに行っていた方も,慣れない避難所生活では生活不活発病にもなる。環境の変化とあいまってストレスも溜まり,認知症も進むと言われている。災害前にはそれほど重症ではなかった方に対しても,口腔ケアを積極的に提供していくことは好ましいことにちがいない。これは,後に続く疾病予防としての歯科保健活動の範疇に入るかもしれない。
【図1】歯科医療救護所
【図2】要介護者への口腔ケア
復旧…仮設歯科診療所の設置
歯科における復旧の中心は,仮設歯科診療所を開設することと思われる。緊急対応として立ち上げた歯科医療救護所は,開設してから長期間経過すると,次第にさまざまな物資が集まり,働きやすくはなってくるが,ほとんどの場合,歯科診療用にデザインされた部屋ではないので,給排水システムが構築できずにポータブルと同様の使い方となったり,防護壁がないままのデンタルエックス線撮影のみであったりと,対応できる治療や衛生管理にも限界がある。
東日本大震災では,仮設歯科診療所の設置が進められたが,運営や資金面での制限,土地や建物を確保するための調整に時間がかかり,宮城県では早い所でも半年の期間を要し,最後に開設された診療所は震災後11カ月後であった。阪神・淡路大震災では,震災発生2週間程度で歯科診療車を応急仮設住宅群の近くなどに常設で配備し,当面の歯科医療を提供した。これは歯科救護所と仮設歯科診療所の中間的位置づけかもしれないが,迅速な対応が可能であり,東日本大震災後も歯科診療車を常時設置とした形の歯科医療救護所は,岩手県や宮城県の沿岸部に複数設置された。
歯科医療救護所の応急治療対応や,巡回歯科診療班による治療対応,口腔ケア対応などには,多くの専門的な人材が必要となり,他の地区からの支援を仰ぐことも少なくない。しかし,支援には期限があり,段階的に地元の医療者のみで行えるように引き継いでいく必要がある。東日本大震災後は,厚生労働省や日本歯科医師会・日本歯科衛生士会によりアレンジされた歯科支援チームが,2011年4月から7月まで派遣されていたが,その後は各地域の歯科医療者に引き継がれる形となった。これもまた,復旧のステージを一段すすめることになったのではないだろうか。
また,支援の関係で,被災前よりもむしろ一時的に医療資源が豊富になった地域もあったようだ。このような地域においては,引き継ぐにあたって地元の保健医療従事者の教育が必要となることもある。研修会などを行っていくことにより,地元の保健医療体制が被災前よりよくなることも起こりえるが,これは,次の復興に結びついていくと考えてよいのかもしれない。
【図3】仮設歯科診療所
復興…もともと興がなかったところには,復もない?
「復興」と言う言葉から考えると,もともとあった「興」を「復」させるわけだが,もともとの「興」があまりなかった場合は,どう考えればいいのだろうか?
歯科の対象は人なので,人がいなければ復興できない。しかし,東日本大震災では津波や放射能災害による甚大な被害を受けており,未だに復興がはじめられる環境が整わず,人がどんどん流出している地域もある。このような地域では,単純に考えれば,歯科の復興も困難となる。特に放射能による被災地域においては,全く先の見えない状態となっている。全町避難を余儀なくされている福島県大熊町や浪江町住民への調査では,40%以上が「戻らない」と回答している。
人がいなければ医療の復興は困難となるが,歯科は特に受診控えが多いと言われる科である。東日本大震災後の社保減免措置終了したあと,宮城県で行った調査によれば「受診を辞めた」とした12%のうち歯科が26%と最も多かった。この事実からもまずは地域の産業が復興した後でないと,医療の復興は来ないとも言えるが,人が減った地域においては医療の復興は難しいのだろうか?
医療を少し広げてみて,医療者が診療所で待っている医療から,在宅の患者や施設の患者の所へ出て行く医療へとシフトすれば,いままでアプローチしていた人の比率よりも,さらに多くの地域の人にアプローチすることができる。幸か不幸か高齢化率は年々高くなってきており,ケアを必要とする人は多くいる。また,肺炎の罹患率も上昇し死因の第3位を占めるまでとなっており,感染症の予防には口腔ケアが重要であることは医療・介護関連肺炎診療ガイドラインでも示されている。よって,地域の復興を待たずして,歯科がどんどん地域に出て行くことにより,歯科も復興できるし,逆に歯科から,地域の復興に一役買うことができるようになる。
町おこし,町づくり,と言う言葉があるが,これはまさに,地域づくりでもあるだろう。この中の健康という側面からの地域づくりに,歯科医療の専門職として積極的に参画していくことが重要だろうと思われる。
また,コールセンターを被災県に移転するなど,機能分化が可能な業種の一部を移転し,雇用を生みだすことによる産業支援もある。こういう観点から医療界においても,高齢者の介護施設を開設して復興に役立てようというアイディアが出たりしている。
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