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オンライン診療の歯科の現状と可能性

長縄 拓哉 ムツー株式会社代表取締役 デジタルハリウッド大学大学院 歯科医師 医学博士 日本遠隔医療学会・歯科遠隔医療分科会 会長
Dental Tribune Japan

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木. 24 9月 2020

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新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)禍において、生活のさまざまなシーンで利用が増えている「オンライン化」。医療の世界も例外ではなく、これまで認められていなかった初診においても、時限措置として、オンライン診療で初診料が算定できるようになりました。一方、歯科領域ではオンラインによる診療や受診はどのようになっているのでしょうか。そこで今回は、日本遠隔医療学会・歯科遠隔医療分科会会長であり、日本で初めて歯科のオンライン診療を始めた長縄拓哉先生に、歯科オンライン診療における現状と今後の可能性についてお聞きしました。

遠隔診療に関連した法整備の現状

―Dental Tribune Japan:まず、これまでのオンライン診療における歯科の位置づけと現状について教えてください。

長縄先生:2018(平成30)年のオンライン診療に関するガイドライン「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が出るまでは、オンライン診療は「遠隔診療」と呼ばれていました。

遠隔診療の法整備という点では、1997(平成9)年に遠隔診療に関する通知が出され、「情報通信機器を用いた遠隔診療は、医師法第20条等に抵触するものではない」という内容が記載され、遠隔で診察することが認められました。そこでは「医師又は歯科医師」と歯科医師も対象にされていましたが、この1997年通知は離島やへき地での遠隔医療が対象であり、疾患も限られていたため、それほど注目はされませんでした。

ところが、2015(平成27)年8月10日の厚生労働省医政局の事務連絡では、「9年通知の疾患(患者)はあくまで例示」と明確化されたため、実質的に「遠隔診療が解禁になった」と、ここで初めて医科と歯科において、遠隔診療が注目されたのです。

そして2018年のオンライン診療の指針で、遠隔診療から「オンライン診療」に呼び方が変わるとともに、「自費診療でも保険診療でも、この指針を守ってください」ということになったのです。さらに、「オンライン診療」に、「オンライン受診勧奨」と「遠隔健康医療相談」が加わり、オンラインでこの3つができるようになりました。

ただし、この指針には歯科に関する記述は1箇所だけになり、実質、歯科が想定されていないといえるでしょう。歯科については、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」で引き続き議論されています。

こうした中で、今回の新型コロナ感染拡大防止のために、時限的特例措置に関する事務連絡が2つ出されました(カコミ1)。1つは厚生労働省医政局歯科保健課より出された「2020(令和2)年4月24日事務連絡」と、もう1つは同保険局医療課より出された「2020(令和2)年4月27日事務連絡」です。これらにより、オンライン診療における初診料の算定のほか、再診料に加えて管理料(55点)も算定できるようになりました。

さらに、この事務連絡には一部「歯科もこの指針内容を参照すること」という記載がありますので、歯科でもこの指針に沿ってオンライン診療を行う必要があります。また、歯科でもオンライン診療で初診料が算定できるようになりましたが、「オンライン初診料」という名称の診療報酬はなく、「歯科訪問診療3」を代わりに算定することになります。さらに、「電話等再診料」に加えて、新たに管理料として55点が算定できることになりました。

大切なのは医療行為か非医療行為かの線引き

―Dental Tribune Japan:2018年のオンライン診療の指針で、できるようになった3つのことについて、もう少し詳しく説明していただけますか。

「オンライン診療」と「オンライン受診勧奨」は、診察、診断、治療などの医学的判断を含む医療行為であり、歯科医師法第20条で規定されています。医療行為であるため医療機関が主体で、医療機関内で行うことになります。また、保険診療と自費診療があり、保険診療は健康保健法で規定されており、自費診療は全額自費になります。

一方、「遠隔健康医療相談」は非医療行為で、全額自費になります。オンライン診療とオンライン受診勧奨とは、ここに大きな違いがあります(P2図参照)。つまり、遠隔健康医療相談はあくまでも一般的な相談であるため、マニュアルに沿った一般的な話をすることになり、患者さんの個別の対応はできません。

例えば、患者さんの症状を聞いて、「あなたの症状では、こんな薬を飲んだほうがいいかもしれませんよ」と診断してしまうと、医療行為にあたるため注意が必要です。また、「あなた」と個別対応すると医療行為に該当する可能性があります。

遠隔健康医療相談は非医療行為のため、歯科衛生士でも行うことができます。また、医療機関以外、例えば企業が主体となって行うこともできます。先ほどの例でいうと、「こういう症状の場合は○○科を受診してください」というような、マニュアル対応をすることになります。

オンライン診療においては、誰(歯科医師、歯科衛生士)が行うのか、どこで行うのか、患者さんはどこにいるのかを、常に意識して行うことが大切です。

患者さんの日常生活を知り、治療の効果が評価できる

―Dental Tribune Japan:歯科のオンライン診療において、「こんなことができるのでは」といったアイデア、ヒントがあれば教えてください。

 

オンライン診療は、あくまで対面診療を補完するものです。オンライン診療だけで完結するものではないので、対面診療と合わせて使うツールとして考えてほしいです。

そのうえで、オンライン診療の具体的な例を挙げます。多くのクリニックでは抜歯をすると、「翌日に消毒に来てください」と患者さんに伝えていますよね。もちろん状況次第で、心配な人は翌日に来院してもらいますが、患者さんによっては1週間後の受診でもいいこともあります。「翌日に受診していただくまでもないが、具合だけ聞きたいな」といった場合に、患者さんの様子を電話やテレビ電話で把握することができます。患者さんもわざわざ来院する時間と労力を省けるのでいいですよね。

また、オンライン診療にしかできないこともあります。例えば義歯をつくった場合、外来で義歯をはめてはみますが、患者さんが家に帰って、その義歯を実際にどのように使っているかは歯科医には分かりません。一方、オンライン診療を応用すればその人の生活に入り込み、その義歯でどのように食べているのか、笑って落ちたりしないかなど、その後の評価ができます。そうすることで、歯科のクオリティアップにもつながるのではないでしょうか。

患者さんは、日常生活の中で病気になります。例えば、歯周病などの生活因子に関係する疾患も、オンライン診療によって日常生活に早期に介入できれば、歯周病の予防にもつながっていくと思います。

私は口腔外科医で口腔顔面の慢性疼痛が専門ですが、これに対するマネジメントや認知行動療法もオンラインで行うことができます。

もう1つ、「D(歯科医) to P(患者さん) with DH(歯科衛生士)」、または「D to P with N(看護師)」という診療形態が想定されます。例えば、在宅診療の現場に歯科医がいなくても、歯科衛生士や看護師がいれば、口腔ケアをする時に、オンライン診療で口の中を一緒に診て、「こういうケアをしましょう」とか、食事の様子を見て遠隔でアドバイスをすることもできます。

歯科のない病院や高齢者施設では、通常、歯科医は週に1回しか訪問しないため、他の6日間の口腔ケアの多くは看護師や介護士が担うことになります。しかし、看護師や介護士が口腔や歯に関する疑問やトラブルに直面したとしても、気軽に相談するところがなく、困っている場合も少なくありません。オンライン診療で歯科医が、看護師や介護士にアドバイスできる意義は大きいと思います。

課題は多職種間のコミュニケーションギャップ

―Dental Tribune Japan:オンライン診療における課題や、今後の可能性についてはいかがでしょうか。

オンライン診療では、先ほどの訪問診療などの場面での、多職種とのコミュニケーションが課題だと思います。

例えば、相手が看護師の場合、「右上のブリッジを見て」と言っても、「右上って、どっち?」「ブリッジって何?」など、歯科医との共通言語がないため伝わらないことがあります。歯科医が現場にいれば、たとえ用語が理解できなくても、「ここ」と指さしで示すことができますが、オンライン診療ではそれができません。つまり、オンライン診療は、言語的なコミュニケーションが極めて重要になります。また、訪問診療先で看護師と歯科衛生士が直接かかわる場合にも、こうした専門用語に関するコミュニケーションの問題が起こり得ます。

このコミュニケーションギャップを埋めたいと考え私が始めたのが、「BOCプロバイダー」です(カコミ2)。BOCプロバイダーの職種はさまざまで、歯科医師、医師、看護師、PT(理学療法士)、ST(言語聴覚士)など、口腔ケアに関心の高い人たちが集まり、その人たちが講師となって、多様なテーマの勉強会を開いています。

私が目指すのは、歯科の知識がある看護師、医科の知識がある歯科衛生士がBOCプロバイダーとなって、歯科と医科の橋渡しをして、オンライン診療におけるコミュニケーションギャップの課題を解決してくれることです。

BOCプロバイダーは医療現場で質の高い口腔ケアを行い、さらに口腔ケアの重要性を日本全国に広めています。BOCプロバイダーの人口増により、歯科と医科のコミュニケーションギャップがなくなり、オンライン診療がスムーズに行えるようになります。新型コロナ終息後も、オンライン診療が適切に定着していくことを期待しています。


新型コロナ対応の時限措置、厚生労働省から出された2つの事務連絡について
新型コロナ感染拡大防止対策として、オンライン診療に関する2つの事務連絡が出されました。
①「令和2年4月24日事務連絡」(厚生労働省医政局歯科保健課)
これは、制度についての変更です。どのような場合に、どのように行うかが明記されています。
・ 歯科医師の責任のもとで医学的に可能だと判断した場合に行える。
・ できる限り、過去の診療録や診療情報提供書、地域医療情報連携ネットワークや健康診断の結果で、患者の口腔内の状況や基礎疾患の情報を把握した上で、診断や処方を行う。
・ 患者本人の確認を行う(医師も顔写真付きの身分証明書で互いに行う)。など
②「令和2年4月27日事務連絡」(厚生労働省保険局医療課)
これは、保険点数の変更についてです。
電話等を用いた初診料という診療報酬(点数)はないため、時限的に「歯科訪問診療3」を算定することになっています。

電話等を用いた再診では、「電話等再診料」を算定し、さらに今回の時限措置として、以前から「歯科疾患管理料」「歯科特定疾患管理料」を算定していた患者に、管理料55点が算定できます。

  

BOCプロバイダーとは 〈BOCプロバイダー認定資格講座〉

訪問看護支援協会が認定する口腔ケアの資格です。BOC(Basic Oral Care)プロバイダーは、病院や在宅医療、訪問介護の現場で基本的な口腔ケアを行います。2018年8月に開講し、現在、BOCプロバイダーは日本全国に約1,000人。職種は看護師、歯科衛生士を中心に、歯科医師、医師、PT、STなど多岐にわたります。

①具体的な活動内容
BOCプロバイダー認定資格講座を受講しBOCプロバイダーと認定されると、FacebookのBOC公式グループに招待されます。ここでは、毎回の講座が生配信され、過去の講義もアーカイブとして閲覧可能。日々直面する口腔ケアに関する疑問やトラブルをグループ内でシェアし、解決できるようになっています。BOCプロバイダーには常に情報をアップデートし、それを勉強会やマニュアルを通して周りのスタッフなどに教える「口腔ケアのインフルエンサー」としての役割があります。

②今後の展望
現在、全国で約1,000人のプロバイダーが活躍していますが、口腔ケアが適切に行き届かない施設は数えきれず、プロバイダーの数がまだまだ足りません。今後はさらにプロバイダーの育成を加速し、彼らとともに口腔ケアに関する新たなエビデンスを構築し、口腔ケアを取り巻く課題の解決を図っていく方針です。

One thought on “オンライン診療の歯科の現状と可能性

  1. 牧野昌道 says:

    突然のご連絡失礼いたします。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)というIT会社にて新規事業企画創出を担当している者となります。現在リモート歯科診療の新規事業企画を進めており、歯科業界の調査をしております。歯科のリモート診療の件についていくつかご意見などをお伺いしたく、少しのお時間でも結構なのでインタビューさせていただくお時間などいただけませんでしょうか。リモート会議(Zoom等)やオンサイトの会議など形式はご都合に合わせますので何卒ご検討のほど、宜しくお願いいたします。
    少し場違いなお願いをしてしまい申し訳ございません。

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