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リーズ大学口腔微生物学教授のPhilip Marsh氏は専門分野の研究で国内外の賞を受賞し、学会で定期的に講演を行っている。生活要因と微生物組成の関係および口腔内細菌の健全なバランスを維持する最も良い方法について、Marsh教授に聞く。
Dental Tribune Asia Pacific:口腔内の細菌のバランスと歯(および全身)の健康の関係についてお聞かせください。
Philip Marsh教授:ヒトと微生物は進化の中で、密接かつ重要な共生関係を有するようになりました。ヒトの50%が微生物であるというほどです。
これらの微生物[ヒトマイクロバイオーム]は正常なもので、健康上欠くことのできない利益をもたらします。口腔内の正常口腔マイクロバイオームは、病原性でありうる外来微生物の定着を防止し、宿主防御と循環系の発達に貢献します。正常な口腔マイクロバイオームは口腔の健康状態と密接な関係がありますが、口腔疾患とは関連しません。
口腔マイクロバイオームは生活様式や環境の変化にどのように影響されるのでしょう?
口腔マイクロバイオームと宿主の間の共生関係は動的で、ライフスタイルが変わり、口腔環境が大きく変化した場合に変わり得ます。例えば、唾液の分泌減少時や糖分含有飲食物の定期的な摂取時です。歯面上のバイオフィルムが酸性pH下にある時間が長くなります。
これにより、有益な微生物は減少し、酸生成時間・耐酸性細菌は増加し、う蝕のリスクが高まります。同様に、バイオフィルムが歯肉縁周囲に蓄積すると、宿主は炎症反応を開始します。これにより微生物負荷が減少されない場合、宿主防御を行うタンパク質を豊富に含む歯肉滲出液は、歯肉縁下バイオフィルムのタンパク質分解菌と偏性嫌気性細菌への栄養素の新たな供給源となってしまいます。これらの細菌は宿主反応を妨害し、炎症を活性化し続けます。この過剰な反応が宿主の組織損傷を引き起こす原因となります。
口腔マイクロバイオームの組成は主に遺伝に基づくのでしょうか?
一部は遺伝に関係していますが、効果的な口腔衛生と適切なライフスタイルにより管理することができます。例えば、食物中の発酵性糖の摂取量と摂取頻度を削減する、喫煙を回避するなどです。一部の薬剤の副作用として、唾液の分泌が減少することがあります。これは口腔マイクロバイオームの正常なバランスを崩し、う蝕のリスクを高めるでしょう。
口腔ケア製品は善玉菌を維持しつつ有害な細菌を減らすことが目的ですが、使い過ぎは危険でしょうか?
口腔マイクロバイオームは正常で有益なものです。そのため、口腔内の健康が維持されるレベルに管理されていなければなりません。口腔ケア製品は、適切に設計・評価されていますので、正しく用いれば、口腔マイクロバイオームを妨害する危険性はほとんどありません。一方、広域抗生物質の長期使用は、かなりの数と種類の有益な口腔細菌を抑制し、酵母菌または環境微生物が異常増殖することがあります。
有益な細菌の定着の管理にあたり、口腔ケア以外の、例えばワクチンなどを用いた方法はありますか?
有益な口腔細菌を増殖させ、疾患の可能性を抑制する新たな方策が展開されています。これには、歯科疾患を予防する口腔共生細菌の開発や、有益な細菌の成長を促進するプロバイオティクスの使用などが含まれます。歯肉縁下のバイオフィルムへの宿主反応が妨害されて生じる組織損傷を軽減し、創傷治癒を促進する抗炎症薬は現在、評価段階にあります。バイオフィルムの形成を抑制する、または歯科疾患に関与する菌種の増殖を阻止する分子の研究も積極的に行われています。また、一部のスナック食品と飲料には、口腔細菌により酸に代謝されない甘味料が含まれています。
口腔内の健全なバランスを保つために、歯科医は患者にどのような指導をすべきですか?
主に、効果的な口腔衛生管理によってバイオフィルムの蓄積が抑制できること、食物中に含まれる糖分のう蝕リスクへの影響を理解するように指導すべきです。患者が、自己の生活様式と、口腔マイクロバイオーム、口腔・全身が健全、健康であることとの関係および直接的な関連性を理解することは、口腔内の健全なバランス維持に役立つかもしれません。
インタビューへのご協力、ありがとうございました。
出典:DT UK 4/2017
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