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はじめに 近年、メタルフリーの審美歯科治療は歯科用CAD/CAMシステムの発展・活用と相俟って、世界的にも大きな潮流となっている。 その際に留意しなければならないのが、接着歯科学の重要性である。シリカ系セラミックスなどの脆弱材料はもとより、ジルコニアなどの強靱な材料においても、歯質との強固な一体化や二次う蝕抑制の観点から接着歯科学が重要といえる。 筆者が使用している接着システムの1つに、クラレノリタケデンタル社の各接着システムがある。今回紹介する「パナビアV5」(以下、V5)は、クラレノリタケデンタル社が開発した高性能かつ汎用性に長けた接着性コンポジットレジンセメント(以下、CRセメント)である(図1)。 また、新規CAD/CAM システム用有機・無機ハイブリッド型ブロック「カタナ アベンシア ブロック」に関しても紹介する。
パナビアV5
V5は、同社製セメントのクリアフィルエステティックセメント(以下、エステティックセメント)やパナビアF2.0に代わる新しいCRセメントである。
1.製品構成
V5は、多機能性リン酸エステル系モノマーMDP(以下、MDP)含有の新規処理剤「パナビアV5トゥースプライマー」(歯質、レジン支台歯、レジンコーティング歯質、金属支台歯に対応)、「パナビアV5ペースト」(ユニバーサルなど5色)、MDP 含有「クリアフィルセラミックプライマープラス」(シリカ系セラミックス、ジルコニア、各ハイブリッド材料、ファイバーポストに対応、従来のセラミックプライマーに金属用途を追加)、「トライインペースト」(全5色)などで構成されている。
2.製品性能
CR セメントに必要な性能として、歯質や修復物などに対する接着力の強さがある。V5は、新規化学重合触媒を用いている。この触媒は、高活性で化学重合性が高い。この特性は、CR セメントにとって非常に重要であり、有利である。
CR セメントは通常、修復物・補綴物下で重合を完了しなければならない。エステティックセメントなどは光によって重合し、光が到達しにくい深部の重合硬化を化学重合とプライマーとの接触重合によって担保している。すなわち、比較的、光に重きをおいたデュアルキュアタイプといえる。しかしながら、光量の弱い修復物・補綴物直下の深部における接着では、若干の不安感を払拭するには至らない。
V5は、上記のような条件下でも従来型CRセメント以上の高い接着力を獲得する。また、多くの治療において、ファイバーポストを応用するなどした接着性支台築造が行われている。このときに接着対象となる歯質は、髄腔内から髄床底、根管象牙質である。これらの象牙質は、解剖学的にも組織学的にも接着に際して不利である。しかし、同社のデータでは、根管象牙質においても190Nを超える高い接着力を示している。
以上よりV5は、コア用レジンとしても有用と考えられる。これら性能の高さは、新規触媒の働きによる化学重合性能の向上と強化に成功したために達成できた。
また、トゥースプライマーに配合されている新規触媒の促進剤は酸性条件下でも安定しており、MDPとも共存可能である。そのため、一液による各処理を可能とした。
図2〜5にV5の性能と特徴として、筆者が所属する日本歯科大学生命歯学部接着歯科学講座の最新実験データを供覧する1,2)。
審美歯科治療に用いられるCRセメントは、色調安定性にも優れていなければならない。従来のCR セメントは吸水や化学重合触媒などにより、その色調安定性に疑問がもたれてきた。これは、現在までに使用されてきた化学重合触媒の芳香族アミンが影響するためである。これまでは、芳香族アミンに代わる触媒がなかったため、ある程度容認せざるを得なかった。
V5に使用されている還元剤は、非アミン還元剤である。この新規非アミン還元剤は非常に高性能であり、還元剤としてアミンを有するエステティックセメントと比較しても、高い色調安定性をもたらしている。このことは、V5が患者のより高度な審美的要求にも応えることが可能であり、色調変化に伴うトラブルをも回避し得ることを示唆している。
従来のCRセメントには、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(BPO)が用いられていた。V5には、より安定性に優れた新規高安定パーオキサイドが開始剤として採用されており、長期にわたる品質安定性が確保されて
いる。これらの新規三元系触媒が、V5の優れた各性能を保証している。
以上のように、V5はさまざまな革新的技術が集結された次世代の指標となり得るCRセメントといえよう。
筆者は、V5を日常臨床で使用することにより、患者に高品位で、かつ安心な治療が提供可能であると確信している(図6〜15)。
カタナ アベンシア ブロック
カタナ アベンシア ブロックはレジンブロックであり、興味深い構造をしている。本ブロックは、一般的なレジンブロックと異なり、ナノフィラーを凝縮させ、一塊の構造物様な状態にする。そこに、ベースレジンを浸潤させて作製する。
この特徴的構造が互いに調和し、高い研磨性やレジンセメントに対する接着性などを生みだしている(図16〜18)。
【参考文献】
1)村田卓也,前野雅彦,小川信太郎,柵木寿男,奈良陽一郎,I.L.Dogon:最近のレジンセメントシステムによる各種被着体に対する接着特性.春季保存学会,2015.
2)小川信太郎,石井紹子,前野雅彦,柵木寿男,奈良陽一郎,I.L.Dogon:メタルフリー間接修復材料を介した透過光による接着性レジンセメントの硬化特性.春季保存学会,2015.
中村 昇司
東京都・八重洲歯科診療所
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