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歯周治療の心得七カ条 第二条 リスクファクターの分析

歯科医学教育国際支援機構 理事長 宮田 隆

歯科医学教育国際支援機構 理事長 宮田 隆

金. 8 3月 2013

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「一生懸命歯磨きしてきたのに,なぜ私だけが歯周病になったのですか?」こんな患者の質問にしばしば答えに窮することがある。確かにお口のなかはきれいで,プラークも付いていない。しかし,明らかに活動性のポケットがあり,歯槽骨の破壊も強い。こんなケース,決して珍しくない。さて,その状況をどのように患者さんに説明したらよいのか? 

リスクファクターの概念を整理
そこで登場するのが「リスクファクター」という,とっておきの考え方だ。
最近はどんな病気も単独の原因では発症しない,というのが常識になっている。例えば胃潰瘍。ピロリ菌が原因の1つとして注目されているが,ピロリ菌の保菌者でも必ずしも胃潰瘍や胃がんになるとは限らない。食生活や精神的なストレスなど複数の要因が重なって発症する。それが「リスクファクター」だ。歯周病の場合も決して例外ではない。
それでは,歯周病のリスクファクターにはどんなものがあるのだろう?

プラーク,咬合,血管に注意
第一条でも触れたが,プラークの歯面付着は歯周病菌の感染原因となる。つまり,歯周組織の炎症を惹起するという意味では最も直接的なリスクファクターと言えよう。それなら,しっかり歯ブラシをしてプラーク・フリーの状態にすれば歯周病にはならないはずだ。しかし,実際にはそんなことはない。
次に考えられるのが噛み合せ。長期的な咬合の不調和やブラキシズムは歯周組織に不可逆的な破壊をもたらす。そこに感染性の炎症が加われば,病態は加速度的に進行する。感
染の次に疑わなくてはいけないリスクファクターこそ,「咬合」である。私はいつも若い先生方に「補綴が好きな先生は歯周病を,歯周病が好きな先生は咬合を勉強せよ」とアドバイスしている。歯周病こそ咬合の診断をしっかりしなくてはならないのだ。
そして,もう1つ重要なのが「血管」というリスクファクター。「血管 ?」と意外に思うかも知れないが,実は歯周病ほど血管との関係が深い病気はほかにない。

歯周病の診断から全身の診断へ
端的な例を挙げよう。それは喫煙だ。喫煙は歯周病の最大のリスクファクターということは誰でも知っている。ではなぜ喫煙が歯周病のリスクファクターになるのだろう。
それは言うまでもなく喫煙によって血管を強烈に傷めてしまうからだ。特に末梢血管がボロボロになってくる。歯周組織は末梢血管から栄養や外来微生物と戦う白血球が供給されている。しかし,末梢血管が傷つき,十分な血液が供給されないと,歯周病原菌と戦うことができない。十分な栄養が来ないから歯周組織の正常な分解,再生能が弱まる。結果として喫煙は深刻な歯周病の原因となるのだ。血管にかかわるのは喫煙だけではない。糖尿病がその代表だ。糖尿病患者さんもやはり歯周病に罹患しやすい。これもやはり糖尿病が血管を傷めているからにほかならない。歯周病の診断には全身状態の把握が欠かせないのは,そのようなリスクファクターを知る必要があるからだ。逆の言い方をすると歯周病の診断を通して患者さんの全身状態の診断もできるということにもなる。
著者自身,幾度も歯周病の状態から糖尿病を見つけた経験がある。そして,糖尿病の治療が奏功してくると歯周治療の効果も良好になってくる,といった経験は数知れない。

<DENTAL TRIBUNE 2009年7月号 P4より転載>
 

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