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【糖尿病専門医に聞く】歯科の最大の強みは「連続性」。子どもから高齢者まで、慢性疾患予防のアプローチを

西田 亙 にしだわたる糖尿病内科 院長 (にしだ・わたる)医学博士・糖尿病専門医。広島市生まれ。1988年愛媛大学医学部卒業。1993年同大学大学院医学系研究科を修了し、医学博士を取得。その後、国立病院勤務、愛媛大学や大阪大学での研究生活を経て、2012年、にしだわたる糖尿病内科を開院。歯周病と糖尿病をテーマに、「健口から健幸へ」を目指した啓発活動を精力的に行っている。医科歯科連携の重要性を伝えるために、全国各地へ赴き、セミナーや講演を実施。著書に『内科医から伝えたい歯科医院に知ってほしい糖尿病のこと』(医歯薬出版)など。
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火. 11 12月 2018

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糖尿病専門医である西田亙先生は、歯科医療従事者に歯周病と糖尿病の関係、共通項、そして歯周病の管理がいかに糖尿病の予防、管理につながるのかについての講演を、毎週のように全国各地で行っています。そこで今回は西田先生に、この講演活動のきっかけから、伝えたいこと、活動への思いまでを伺いました。

歯周病を治療したら自分自身の体が変わった

Dental Tribune Japan:糖尿病専門医でありながら、歯科にアピールしたいと思われたきっかけは?

西田先生:以前、私は朝1回しか歯磨きをしていなくて、リンゴをかじると血が出るなど、ひどい歯周病にかかっていました。その当時は体重が92㎏以上もあり、糖尿病専門医であるにもかかわらず糖尿病予備軍で、しかも高血圧症や重症の不整脈もありました。

そんな時、愛媛大学と愛媛県歯科医師会との共同臨床研究をきっかけに、まずは自分自身から歯周病の治療を受けることにしたのです。歯周病の治療の過程で、夕食後の歯磨きが習慣になると、せっかくきれいにした口の中を汚したくないので、自然と夜食を取らなくなりました。運動もするようになり、1年以上をかけて18㎏の減量に成功。すると糖尿病のリスクが減るとともに、高血圧症などがすべて姿を消したのです。

また、病院勤務時代には、糖尿病患者さんの歯周病治療により、糖尿病が劇的に改善した症例も経験しました。これらに驚いて歯科の勉強を始めたところ、糖尿病をはじめとしたあらゆる疾患が、口腔と深くつながっていることに気がついたのです。

現在は、日本糖尿病学会も歯周病との関係について、前向きに言及してはいますが、実際に糖尿病患者さんに向けて、歯周病治療の必要性について積極的に発信している人は一握りにすぎません。

そこで、糖尿病の管理には歯科医療という場が欠かせないことを、こうして歯科医療従事者に向けて発信し始めました。

 

歯周病と糖尿病の共通点について教えてください。

まず病態 ※1 としては、どちらも慢性的に続く微小炎症が存在している、つまり歯周病と糖尿病は体に小さな炎症が起きているのです。

また、どちらも社会病であるという特徴があります。糖尿病で一番良くないのは、夜遅い食事です。もしも日本人全員が明日から午後7時までに夕食をすますことができれば、糖尿病の患者さんは一気に減ることでしょう。しかし、今の社会でそれは難しい。24時間社会を支え続けるために、みんなが犠牲になって遅くまで働き、夜遅く食べざるを得ないのです。

私は生活習慣病という言葉には違和感を覚えます。それは「あなたが夜中の1時、2時に食べているという生活が、病気を招いたんですよ」という、冷たい言い方に聞こえるからです。糖尿病も、歯周病も、う蝕も、日本の社会自体が生み出した社会病であると言えるのではないでしょうか。

もう一つは、どちらもいったん発症したら、治癒しないという共通点を持っています。糖尿病治療ガイドには、「糖尿病は治癒しない」と明記されています。歯周病も糖尿病と同じく「治癒しない」病気ではないでしょうか。

だからこそ、どちらも生涯にわたる管理が必要なのです。そのまま放置すると、糖尿病は時として腎不全や心筋梗塞を合併し、歯周病なら歯が抜けてしまいます。このような不幸が起きないように、患者さんと医療従事者でしっかりと管理を続けていくことが大事です。

 

慢性疾患が医科歯科の共通ターゲットの時代に

西田先生から見た、疾病の予防や管理に関する歯科の強みは?

歯科の強みを一言で表現すると、「連続性」だと思います。例えば、歯科には子どもから成人、妊婦、高齢者まで、すべての年代の人が来院しますが、当院を訪れるのはほとんどが中高年で、子どもは来ません。

また、医科では予防のために来院するということはありません。予防医療には保険点数がつかないということも大きいと思います。

連続性という点でもう一つ付け加えたいのは、歯科医院が親子で受け継がれるという世代を超えた連続性です。目の前の患者さんの補綴物が、亡くなった先代院長の手によるものであれば、「親父はいい仕事をしていたんだな……」と患者さんのお口を介して対話ができることでしょう。こうした世代を超えた連続性は、内科の世界にはありません。

そして歯医者に行くと、必ずきれいになる、これってすごいことですよ。例えば当院では、全員の血糖値が良くなるわけではなく、良くて3割ぐらいです。

しかし歯科に行けば、歯科衛生士の力で、入った時より出ていく時のほうがきれいになっています。ただとても残念なのが、あれだけ時間をかけてお口の中をきれいにしても、勇気づけたり、称賛したりする言葉が歯科外来では少ないことです。「はい、終わりました」「お疲れさまでした」では、あまりにもったいない。

ぜひ「これだけピカピカになりました」「まぶしいほどですよ」と言ってほしいですね。

 

では最後に、西田先生の今後の活動の目標をお聞かせください。

糖尿病専門医として私が本来行いたいのは、若い時からの予防です。特に妊婦や子どもにアプローチしたい。今の妊婦さんのなかには、妊娠糖尿病の人が12%いますし、あらゆる世代の間で物凄い勢いで糖尿病予備軍が増えています。だから私は妊婦さんの糖尿病を予防したいのですが、若い女性は当院には来院しません。でも彼女たちは歯科医院には行きます。

そこで、これから結婚して家庭をもって、赤ちゃんをつくろうという人に、歯科衛生士が赤く腫れた歯茎を見た時、「スイーツがお好きではないですか」「歯茎が腫れているということは、血糖値にも影響して、赤ちゃんができたとき妊娠糖尿病になるかもしれませんよ」、というような話ができるといいですね。つまり、歯科医院で歯科衛生士が歯周病の管理をすると同時に、糖尿病の予防と管理ができると、歯科も内科もウィンウィンの関係になれるのではないでしょうか。

これからは、慢性疾患が医科歯科の共通のターゲットになる時代です。歯科の皆さまには先ほど言った「連続性」を生かしたアプローチを、積極的に行っていただきたいので、これからもこうした活動を続けていきたいと思います。

インタビューへのご協力、ありがとうございました。

 

※1 歯周病と糖尿病のかかわり

2型糖尿病の原因の一つとして、脂質を過剰にため込んで大型化した脂肪細胞が、慢性的な炎症を引き起こし、炎症細胞から分泌される炎症性サイトカインが、インスリン抵抗性を増大させ、血糖値を上昇させていると考えられています。

一方、歯周病は歯周組織で嫌気性細菌を主とした感染が起こり、免疫細胞から炎症性サイトカインが分泌され、それが血流に乗って全身に播種し、インスリン抵抗性を増大化させます。

このように、歯周組織で起こった炎症と、脂肪組織で起こった炎症はどちらも、炎症性サイトカインを通じてインスリン抵抗性を増大させます。その結果、血糖値を上昇させるという同じ病態が基盤となっているのです。

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