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CAD/CAMの登場は、補綴治療、歯科技工のあり方を大きく変えました。従来、歯科医師・歯科技工士の経験、スキルに左右されがちだった補綴治療も、今ではCAD/CAMによって「標準化」「再現性」のある治療へと進化し、さらなる恩恵を患者、歯科医師、歯科技工士にもたらしつつあります。「CAD/CAMは歯科技工の新しい世界を開く」と説く、歯科技工ラボ・パシャデンタルラボラトリー代表であり歯科技工士の枝川智之氏に伺います。
CAD/CAMの3大メリット
標準化・再現性・情報の共有化
Dental Tribune Japan:CAD/CAMの導入から6年と伺いましたが、そのメリットは?
枝川氏:1つ目は、歯科技工の技術を「標準化」できたことです。従来、歯科技工の技術の習得には経験値が必要でしたが、今は新卒でも、CAD/CAM操作により「標準的」な仕事ができる。つまり、模型からコーピング作製という歯科技工の土台部分を、標準的なレベルで誰もが容易に達成できます。また、「再現性」もあるので、前回作ったプロビジョナルレストレーションの一部手直しなども、データからそこの部分だけを修正できます。その上で、人の手でなければできない残された部分=審美性や患者さんの個性、要望に合わせた色、形の再現などクリエイティブな部分に、より時間をかけることができるようになりました。
2つ目は、デジタル化により歯科医師と具体的な数値や画像を基に、どのような補綴物を作ればよいかを「共有化」できるようになり、多くのメリットが生まれました。
例えば、歯冠長に関しての先生からの指示も従来は、「歯を少し長くしてほしい」という曖昧な表現のオーダーが常で、その擦り合わせに多くの時間がかかっていました。それがデータ共有により、モデリング画像を基に、より具体的なオーダーに変わりました。導入後は形態や色など、より患者さんの個性や要望を実現するための歯科技工にもっと時間をかけ、より質の高い補綴物を作ることができるようになったのです。
その一環として当社では、CAD/CAMを活かしたインプラント治療の際、お付き合いのある先生とは、治療計画時から参画しています。具体的には先生からの模型を当社でデータ化し、インプラント埋入位置や最終補綴物に関する評価をお伝えします。先生は当社から送られた石膏模型のSTLデータを重ね合わせて設計し、インプラント埋入の位置関係を決める、という流れです。このように治療ゴールを互いに可視化し、具現化することで、早い段階で問題点を見つけ、解決策を練り合う。こうすることで、治療結果がより確実なものになったと思います。
CAD/CAMで変わるラボマネジメント
ラボのマネジメントという点で変わった点はありますか?
はい。ですがCAD/CAMの導入=効率化では決してありません。そこにはマネジメントが必要です。作業をすべて従来通り、1人でやるには無理がある。モデリングして、それをCAD/CAMで削り出し、さらに調整をするなどさまざまな工程で分業化が必要だからです。それを3人ぐらいで分担しなければ効率化は難しい。よりスタッフが増え、連携が求められます。そのため、私は社内のコミュニケーションをとても重視しています。経営者とスタッフが一丸となり、社内のコミュニケーションをしっかりと取れるようになることが大切です。
また、先ほど述べたクリエイティブな部分にも、人の手や時間をかけられる体制や、経験豊富なスタッフも必要です。「CAD/CAMを使えばある程度のものが、無調整にできる」は大きな誤解です。ある程度のものはできるかもしれませんが、最後の微調整には技術と経験が必要なのです。
ラボとしてこれからは、CAD/CAMをいかにうまく使いこなすか、そのノウハウが欠かせませんし、それができれば、ビジネスチャンスは大きいと思います。CAD/CAMに使われるのではなく、使いこなす。メーカーにいわれた使い方ではなく、自分たちのオリジナルの使い方をしていかなければ、CAD/CAMは活きてきません。
これまでの技工士は、歯を作るセンスが問われていた職人でした。しかし今は、その要素を持ちつつ、いかにデジタルを駆使し具現化するか、これも必要不可欠なのだと思います。
さらに技工士は、技術と併せて要望を叶えるためのスキルが必要です。相手がどのようなことを望んでいるのかを把握して、それを表現する。つまり、歯科医も技工士も「患者さんのために」という同じ視点を持ち、その高い要望に応えるためのコミュニケーションツールの1つとして、CAD/CAMという選択肢があるのです。
デジタルデンティストリーによって標準化されたことで、職人的な技術に頼るのではなく、再現性のある医療が実現されるようになったのと同時に、患者さんが求めるものを作るためのコミュニケーション能力や、マネジメント能力が必要になってきました。まさに、新しい技工士の時代がやってきたといえるでしょう。
インタビューへのご協力、ありがとうございました。
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