DT News - Japan - 学会理事長に聞く 会員サポートと、国民への啓発 両面からの活動で、一歩でも前へ

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学会理事長に聞く 会員サポートと、国民への啓発 両面からの活動で、一歩でも前へ

(たけだ・ともこ)歯周病専門医。東京都生まれ。1981年東京歯科大学卒業。1987年に狛江市で、ともこデンタルクリニックを開業。1998年に下北沢へ移転。この間、JIADSペリオ補綴コース、ボストンのIADSでの研修を受講。その後もニューヨーク大学CDEプログラムを卒業、ISCDの取得など、技術や知識を習得。歯周病治療を中心に、素敵な笑顔といつまでも健康な歯で生活できるよう、患者のライフスタイル・ライフステージに合わせた治療を行っている。2019年4月、日本臨床歯周病学会理事長に就任。
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木. 9 5月 2019

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今年で設立37年目を迎える、日本の臨床家を対象とした日本臨床歯周病学会は、会員数4,700名強と順調に会員も増え、全国に7支部を抱えるまでになりました。そこで今年の4月、新理事長に就任した武田朋子先生に、女性初となる理事長としての思いや、現在の活動から今後の抱負、さらに6月に札幌で開かれる年次大会についてもお聞きしました。

日本歯周病学会と連携し 歯周病専門医への道を開く

2023年に40周年を迎える日本臨床歯周病学会は、会員数を順調に伸ばし、女性会員数も200名ほどになりました。

NPO法人になってから飛躍的に活動内容が増えましたが、現在の基本的な活動は全国に7支部ある各支部での活動が中心となっています。支部の中で研さんを積まれた先生方が、AAP(アメリカ歯周病学会)をはじめとした海外の学会で発表するなど、活動の幅は徐々に広がっています。

当学会は臨床家の会員割合が高いことが大きな特徴で、設立の理念は「1枚のデンタル画像から膝を突き合わせて歯周病について語ろう」でした。その理念を実現するために、支部ごとに研修の場や学ぶ機会を多くつくり、こうした場で学んだことを基に、地域に密着して患者さんの歯周病の治療にあたっています。

一方、正会員であれば全国のどの支部でも開催される研修会を受けられます。支部ごとに特徴あるテーマを設け、第一線で活躍されている先生を講師にお招きしていますので、自分で勉強していこうという意欲があれば、学びの場とチャンスはいくらでもあります。新理事長としても、これからもこうした活動を引き継いでいきます。

また、日本歯周病学会と連携し、大学での研究についての知識をいただきながら、臨床の場で活用させてもらっていることも、当学会の特長といえるでしょう。日本歯周病学会のご協力のもと、当学会の認定医から、日本歯周病学会の歯周病専門医の試験が受けられる仕組みもつくりました(カコミ参照)。

臨床家の多くは、大学を卒業してクリニックに勤務した後に開業するため、その時点では専門医の受験資格はありません。そこで当学会の認定医を取得した人であれば、専門医の受験資格を得られるようにしました。これにより、歯科医師としてのキャリア形成にも、大いに役立つと思います。

 

年次大会に英語セッションを導入

理事長としての私の思いは、当会員の多くが海外の歯周病学術大会に出ていって、英語で発表や質問するなど、積極的に発言してほしいと思っています。当学会ではAAPやTAP(台湾歯周病学会)と姉妹提携をしており、15年くらいのお付き合いがあります。しかし、若い先生方がそこで研究発表をしたり、英語での質問がなかなかできません。一方で台湾や韓国などアジア圏の先生方は、英語で積極的に発言しています。

英語の論文を読むことはできても、英語でのコミュニケーションができないと、情報の入手が遅れてしまいます。特に海外の文献を翻訳するまでには2、3年かかるため、タイムラグが出てきます。

ただ、最初から海外で発表するのはハードルが高いのが現実です。そこで、まずは6月に札幌で開催される年次大会に、英語によるインターナショナルセッションを設けました。これは発表もモデレーターや座長も、通訳をつけずにすべて英語で行います。模擬海外シンポジウムのようなものといえるでしょう。台湾と当学会から各3名、韓国から1名の合計7名が発表します。

こうした経験を通して、優秀な若い先生方を、AAPやTAP、EuroPerioなどの大会にエントリーできるように育成し、海外に送り出していきたいと考えています。

将来的には各支部でも英語で発表する機会をつくるなど、底辺を広げていけば、国際化にも対応していけるでしょう。

 

道の駅を利用した市民への啓発活動を展開

最近、やっと国民の皆さまに、歯周病と全身疾患は関係があるということが知られてきました。当院にも糖尿病の先生から、「歯周病を治療してもらいなさい」といわれ、来院する患者さんも増えています。

そこで、もっと国民の皆さまに歯周病を正しく理解していただき、これからは治すだけでなく、メインテナンスをしっかりと行い、それ以上発症させないようにする。つまり、予防できることを啓発することも、当学会の使命ではないかと考えています。

こうした国民への普及活動の一環として、これまでは支部ごとに年に1、2回、歯科についての健康講座を実施してきましたが、昨年初めての試みとして、長野県佐久市にある「道の駅」で、歯科の市民講座を開催したところ、大変好評でした。

この道の駅は土日ともなると、1日に約1,700人も訪れるのだそうです。こうした不特定多数の方々に、「何をやっているんだろう」と興味を持ってもらったり、チラシに目を通してもらったりするだけでも、歯周病について広く知ってもらえるきっかけになると思います。今年も他の道の駅での、市民向け歯周病講座の実施に向けて、現在、全国道の駅連絡協議会と話し合っています。

もう一つの国民への啓発活動は、2016年に日本歯周病学会との初の公式本として、一般向けの『日本人はこうして歯を失っていく 専門医が教える歯周病の怖さと正しい治し方』(朝日新聞出版)を出版したことです。その第二弾として、インプラント周囲炎も含めた、一般向けの歯周病の書籍を出版したいと考えています。

現在、学会として歯周病の実態調査を行っていますが、そこにインプラント周囲炎を加え、臨床家だからこそできる実態調査を継続していく予定です。

2017年11月にAAPとEFP(ヨーロッパ歯周病学会)が共同でWorld Workshopを開催し、今までの慢性歯周炎や侵襲性歯周炎といった分類ではなく、「ステージ」と「グレード」で表記する分類を発表しました。

「ステージ」とはポケット深度、X線上の骨吸収、欠損数による歯周炎の重症度と骨欠損形態や根分岐部病変などの複雑度を加えてステージⅠ~Ⅳに分類したもので、数字が上がるほど管理が複雑であることを表しています。「グレード」は経年的な予後の予測を判断するために喫煙、糖尿病など修飾因子を加え、A、B、Cの3カテゴリーに分類されています。今後はこの新分類をできるだけ早く、臨床レベルでも使用していかなければならないと思います。

最後に、先日、理事長就任の挨拶で、「たくさんの思いがあれば必ず成功する」というヘレン・ケラーの言葉を伝えました。この言葉のように、理事の先生方といろいろなアイデアを出し合い、当学会をもう一歩前へ進ませていきたいと思います。

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