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失敗しないインプラント治療のために ―知っておきたい局所解剖 Vol.2―

朝日大学歯学部口腔病態医療学講座インプラント学分野教授 永原國央

朝日大学歯学部口腔病態医療学講座インプラント学分野教授 永原國央

水. 10 10月 2012

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Vol.2 オトガイ孔 -神経麻痺を引き起こさないために- 下歯槽神経にまつわるトラブル,訴訟が最も多いことは前回お話しした。下歯槽神経は,三叉神経の第三枝として卵円孔を通じて脳頭蓋底より下り,下顎骨内にはいるために下 顎孔に達する。その後,下顎骨内を走行しオトガイ孔より外に出ているため,下歯槽神経は舌側から頬側へと横断している。この下歯槽神経の走行パターンを頭に入れ,患者に向 かうことが下歯槽神経損傷のリスクを低減させることになる。  

 今回はオトガイ孔部の状態を上条雍彦著『口腔解剖学』(アナトーム社)の図譜とともに紹介するので理解を深めて欲しい。一般的に知られているオトガイ孔は,下顎小臼歯部下方に存在するというくらいであろう。しかしその形態はバリエーションに富んでおり,単純な孔として捉えておくと,ドリリング時に神経麻痺を引き起こすようなことになりかねない。

バリエーションに富むオトガイ孔

 まずは,上下的な位置である。図1を見ていただくと有歯顎の場合は,小臼歯歯頚部の歯槽骨からオトガイ孔までとオトガイ孔から下顎骨下縁までの距離がほぼ同じ,即ち,中央部に存在する。しかし,中央部といってもやや上方に位置するもの③が47.0%と多く,次いで,やや下方②が30.4%となっている。ということは,中央部よりやや上方にあると理解しておかなければならない。さらに,インプラント体を埋入する場合は歯が喪失しているので,16.1mmとなっているオトガイ孔の上方の骨幅は減少し,上下的位置はさらに上方になっていることは確かである。そのため,下顎第一,第二小臼歯部に埋入する際,下顎管の位置も重要であるが,それよりも上方にあるオトガイ孔の位置確認がきわめて重要であることを物語っている。

【図 1】オトガイ孔の上下的位置
〔上條雍彦: 口腔解剖学第3版, 骨学(臨床編), アナトーム社, 2006, p162より引用〕

図2は,オトガイ孔部下顎骨の断面所見であるが,皮質骨部を抜けて外方に開口する状態に3種類のパターンがあることを示している。直線的なもの①が75%と最も多いが,上方に凸状態になっている②が15%であることを認識しなくてはいけない。

【図 2】オトガイ孔部断面所見
〔上條雍彦: 口腔解剖学第3版, 骨学(臨床編),アナトーム社, 2006, p219より引用〕 

 図3は図2で示したものの頬側からの所見である。この中で,anteriorloopを形成しているパターンのもの③,④が73.4%とほとんどを占めているということが重要である。

 図2,3から,下顎第一小臼歯あるいは犬歯部にインプラント体を埋入する際には,「オトガイ孔の近心部であるからドリリングの深さは気にしなくてもよい」という考えは非常に危険であることが,御理解いただけると思う。一般的には,肉眼的にあるいはパノラマX線上で確認されるオトガイ孔よりも,近心部4mmは危険領域であると考えなくてはいけない。

【図 3】オトガイ孔部の下顎管の頬側所見
〔上條雍彦: 口腔解剖学第3版, 骨学(臨床編),アナトーム社, 2006, p219より引用〕

《DENTAL TRIBUNE 2009年8月Vol. 5 No. 8 P5より》

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