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東日本大震災から2年 歯科医師の復興支援と課題 第1回 「歯科の災害対応と,いまも続く支援活動」

東京医科歯科大学大学院 顎顔面外科学 中久木康一

東京医科歯科大学大学院 顎顔面外科学 中久木康一

金. 29 3月 2013

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未曾有の大津波で壊滅的な被害を受けた宮城県牡鹿半島の付け根に位置する女川町では,震災から2年経過した今もなお復旧・復興支援が必要な状況にある。本稿は現在も継続的に現地に足を運び続ける著者に,活動を続ける理由や地域振興と歯科診療の連携の必要性,実際の活動から見えた歯科医療関係者が備えるべきコミュニケーション力と変化する状況に対応する柔軟性などについて,3回にわたりシリーズで報告していただく。 

歯科の災害対応と,今も続く支援活動

災害に対する歯科の対応は,歯科所見による個人識別を活用した身元確認への協力,崩壊した地域医療を補完するための応急歯科診療,そして,長期化する避難生活において健康を崩さないための歯科保健活動に大別される。

身元確認への協力は,警察の管理下で行われ,平常時では警察歯科医らが対応している。しかし,東日本大震災では多くの人手が必要となり,日本歯科医師会や県歯科医師会などのアレンジによって全国から多くの歯科医師らが応援にかけつけた。岩手・宮城・福島の3県で歯科所見により身元が特定された方は, 2013年3月7日の発表では全体の7.9%であったとされている。今もまだ,身元不明のご遺体の歯科的所見採取は少ないながらも継続されている。また,生前情報との照合システムの検討も,さらに進められている。

一方で,被災者に対する歯科医療の対応は,フェーズとともにシフトしていく。災害当初は,周辺の歯科医療機関のダメージに応じてそれを補完する歯科治療の支援活動が行われる。災害の特徴に応じて,外傷への対応よりも一般的な歯科疾患の対応が中心となることも少なくない。災害直後の歯科疾患の特徴には,細菌やウイルスによる感染症と急激な体重減少による義歯の不適合や食事形態の変化による摂食困難が起こりやすい。

これと同時に,歯科保健活動も行われるが,保健医療は地域保健行政の下でアレンジされる。情報や交通が寸断されている中でニーズを把握することは難しく,また,日々状況は変化していくため,動きながら修正していくような対応が求められる。人員や物品の調達や確保以外にも,情報の把握と集計,そして,方針・方向性の統一など,管理調整機能が大きく求められる。

 

【図1】震災後の避難所:口腔ケアの様子

口腔ケアの必要性の認識とその課題

1995年の阪神・淡路大震災では,921名にものぼった災害関連死の中の4分の1を肺炎が占めたが,2000年ごろより,口腔ケアにより口腔内細菌を減らすことが誤嚥性肺炎の発症率や死亡率の減少に寄与することが示されてきた。それ以降,要援護者への口腔ケアを中心とした歯科保健活動が必要であると言われだし,新潟の2回の震災において実施され一定の効果を上げたと考えられている。災害時の口腔ケアの必要性が徐々に認知されてきており,東日本大震災後7日後には厚生労働省通知「被災地での健康を守るために」の第2版に「高齢者では,歯・口の清掃(口腔ケア)がおろそかになると(中略)誤嚥性肺炎などの呼吸器感染症を引き起こしやすくなります」と記載され,病気の予防のためにも,歯みがきやうがいの推奨が記された。

これを受けて,厚生労働省が日本歯科医師会や日本歯科衛生士会などと連携して歯科医師や歯科衛生士を被災地に派遣し,避難所を巡回しての歯科保健活動を7月末まで行った。これは有用であったと考えられるが,最初の派遣が4月に入ってからとなり,初期に増悪する細菌やウイルス感染症への対応としては,少し後手にまわったと言わざるを得ない。

避難所での共同生活は困難と思われる避難者は,福祉避難所へと誘導される名目になっている。しかし,平成22年3月末時点で実際に福祉避難所を指定していた市町村は宮城県で40%,岩手県で14.7%,福島県で18.6%にとどまっていたとされており,多くは指定されていなかった。そのうえ,津波の被害で沿岸部の多くの施設は使用不可となり,少ない施設に多数の要支援者が避難することとなり,職員の被災もあって,介護力は極端に低下し,水や物資の調達もままならず,とても口腔ケアをする余裕はなかっただろうと考えられる。
施設のみならず,在宅介護者に対しても,電気や水が行き届かなくなれば,普段以上の支援が必要になる。電動ベッド,吸入酸素など,当初より多くの問題が指定されたが,その避難情報は個人情報として,なかなか介護者は共有できず,対処が遅れた。

このように,東日本大震災後の要援護者対応は初動に課題を残し,同様に,口腔ケア用品を届けられなかったことも多くあった。現在,災害時の要援護者対策の見直しが各機関において進められており,歯科においても改善すべく検討しておくべきであろう。

応急仮設住宅に移行してからは,震災復興基金事業における歯科口腔保健支援事業による巡回の歯科保健活動が行われている。市町村の自治体が実施計画を立てて,これを県歯科医師会などが窓口となり対応しているが,被災が大きな地域では,自治体も歯科関係者にも余力がなく,その実施体制や回数は,その必要性と見合っているとは必ずしも言えない。

このようにひとつひとつ挙げても,なお,見逃される人はいる。主導していくのは自治体なのか,歯科医師会なのか。自治体においては災害医療コーディネーターの導入が進められているが,ここに歯科がどのようにかかわっていけるのか。

実際を担う自治体や歯科医師会,歯科衛生士会などはそれぞれ,東日本大震災での経験を踏まえての体制づくりや研修に着手している。それぞれでの定義づけがなされてから,それぞれの機関,また,医科や看護,介護との間をつなぐ横断的な研修会などを通じて,連携が進んでいくこともまた必要とされている。

   

【図2】仮設住宅での歯科保健活動

INFOMATION /REPORT
東日本大震災歯科支援シンポジウム 歯科として地域にどう貢献できるか
~震災2年を迎えてこれからの課題~

2013年3月20日(水),東京医科歯科大学にて,標記シンポジウムが開催された。一瀬浩隆氏(気仙沼・南三陸「食べる」取り組み研究会),中久木康一氏(女川歯科保健チーム),北村良平氏・木部雅也氏(Smile with You)の3者が,震災から2年を迎えた気仙沼市、女川町、そして石巻市での歯科保健医療支援活動と課題をテーマに,講演とディスカッションを行った。
中久木氏の講演では,女川町での2年を振り返り,震災直後から刻々と移り変わるニーズや地域連携の支援活動への取り組みには「継続性と柔軟性」が求められると強調した。

 

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