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近年、フロアブルタイプのコンポジットレジン(以下、フロアブルレジン)は物性(機械的性質・重合収縮率・形態賦形性)の向上に伴い、前歯部だけでなく、臼歯部においても使用可能な製品が多数市販され、適応症の拡大に繫がっています。
臨床導入のきっかけ
平成27年5月に東急田園都市線の市が尾駅近くで開業することになり、歯科材料の選択および再考の機会を得ることができました。現在、フロアブルレジンに関しては、国内メーカーからだけでも数多くの種類が市販されています。フロアブルレジンの選択基準として、物性、操作性、コストなどが挙げられると思いますが、検討の結果、当院では「デントクラフト ファインフロー」(図1:ヨシダ)を導入するに至りました。
天然歯との色調のなじみがよく、単色での修復でも非常に審美的満足度の高い結果が得られることが理由として挙げられます。
デントクラフト ファインフローの3つの特徴
1.優れた操作性
一般的に、症例に応じて何種類かのレジンを使い分けることが多いと思いますが、デントクラフト ファインフローは、ねらったところに留まる適度な流動性と賦形性、インスツルメント離れがよいため、1種類で幅広い症例に対応可能です。
2.重合収縮を極力抑制
一般的なフロアブルレジンの特徴として、窩洞への適合性のよさが挙げられます。ただし、重合時の収縮が大きい傾向にあり、積層充塡(レイヤリングテクニック)を行うことでそれを補償する必要があります。
しかし、デントクラフト ファインフローは、これまでのフロアブルレジンと比較しても重合収縮が小さく(図2)、重合深度も深いため、通常よりも積層充塡の回数を減らせる可能性が考えられます。また、重合収縮が小さいことにより、歯質とのより安定した接着が得られ、長期安定性も期待できます。
3.優れた審美性
フィラー含有60wt%、直径平均40nmのナノフィラーを採用しています(図3)。フィラー含有率が比較的高く、フィラーが小さいので、形態修正後の最終研磨面も非常にきれいに仕上がり、充塡後の変色、着色も生じにくいという特徴があります。
また、シェードラインナップもA1、A2、A3、A3.5、B2、C2、A2O、A3O、I(切端用)と豊富で、天然歯に溶け込む色調と透明感があり、実際に単色で充塡した場合でも、非常に自然な仕上がりが得られます。天然歯との色調のなじみのよさも感じられ、優れた審美修復が行えます。
結果として、日常臨床における煩雑な行程が単純化され、診療時間の短縮にも繫がると思います。
4.その他の特徴
①保険診療を行ううえで重要なポイントとなるコストパフォーマンスのよさ
②高い耐摩耗性(図4)
③高い曲げ強度と圧縮強度(図5)
などが挙げられます。
開業前は、保険外診療専門の医院に勤務しており、いままで使用していた保険外のコンポジットレジンとデントクラフト ファインフローを比較しても、その使用感や操作性にあまり違いを感じなかったというのが、率直な感想です。
また、一般的にフロアブルレジンでは充塡時の気泡混入に注意が必要ですが、デントクラフト ファインフローは気泡も入りにくいように思われます。
以上の特徴により、デントクラフト ファインフローは、適度な流動性と優れた審美性をもった、よりハイレベルな操作性を追求したフロアブルレジンといえます。
実際の使用方法・術式
症例1:前歯部隣接面のう蝕除去後、単色で修復を行った症例(図6〜10)
軟化象牙質を除去し、う蝕検知液を用いて染色してう蝕罹患歯質(赤染色部)をラウンドバーを用いて丁寧に除去した。エナメル質には一層のベベルを付与した。エナメル質のリン酸エッチング後、象牙質処理(EDTAによるスミア層の除去、グリセリンモノメタクリレート[以下、GM]によるプライミング処理)、ボンディングを行い、通法に従ってデントクラフト ファインフローを積層充塡し、形態修正と研磨を行った。
症例2:臼歯部隣接面のう蝕除去後、単色で修復を行った症例(図11〜18)
天然歯とのなじみがよく、適度な透明感があり、非常に自然な仕上がりである。
症例3:上顎前歯近心隣接面の不適合充塡物と二次う蝕の修復(図19、20)
非常に自然な仕上がりで天然歯とのなじみのよさが感じられる。
症例4:下顎小臼歯頰側の不適合充塡物と二次う蝕の修復(図21、22)
非常に自然な仕上がりで天然歯とのなじみのよさが感じられる。
より効果的な臨床応用を可能にするテクニック
1)う蝕検知液を用いてう蝕罹患歯質を確実に除去する。
2)接着を確実にするために、エナメル質のリン酸エッチング、EDTA、GMを用いた象牙質の処理を行い、コントラクションギャップを低減させる。
3)可能な限り積層充塡(レイヤリングテクニック)を行い、重合収縮の影響を抑える。
4)デントクラフト ファインフローは、高い曲げ強度と圧縮強度があり、咬合圧に対して十分な耐久性をもっている。しかし、臼歯部咬合面の修復の際には、ペーストタイプのデントクラフト ファインフィル(ヨシダ)を併用することにより、さらに予知性の高い治療が可能になると思われる。
謝辞
原稿執筆にあたってご指導くださった弘岡秀明先生(東京都・スウェーデンデンタルセンター)、いつも忙しいなかで協力してくれる当院スタッフに、この場を借りてお礼を述べたいと思います。
菅原 孝
神奈川県・ファミリア歯科
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