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臨床課題解決型コンポジットレジンの応用 現在のコンポジットレジン修復は、MI治療の概念に基づき、患者の審美修復に対する要求に応え得るう蝕治療の主たる選択肢として広く用いられている。コンポジットレジンに求められる性能は、強度、耐久性、操作性、色調およびフッ素徐放性など多岐にわたっており、これらに対して総合的に優れていることが重要である。しかしながら、これらの性能をすべて満足させることは技術的に難しく、とくにフッ素徐放性を有する歯科材料では、吸水を伴うフッ化物イオンの徐放プロセスにおける経時的な強度低下や色調変化が問題となっている1)。
ボンディングシステムは、セルフエッチングシステムの誕生により簡略化が進んでおり、最近ではセルフエッチングプライマーとボンディングレジンを合体させたオールインワンと呼ばれる1ステップ1液タイプが開発されている2)。しかし、接着対象であるエナメル質と象牙質とでは組成や構造が大きく異なるため、1液で同時に表面処理を行うことは難しい。また、ボンディング前に歯面をエアー等で乾燥させる必要があるが、口腔内の湿潤条件では乾燥が不十分になり、接着性が低下することがある。このように、コンポジットレジン修復にはまだまだ解決すべき臨床的な課題がいくつか残されている。
アイゴス&アイゴスボンド
「アイゴス」は、山本貴金属地金㈱が開発したフッ素徐放性と優れた強度を有するコンポジットレジンである(図1左)。「アイゴス」では、同社が独自に開発したセラミックス・クラスター・フィラーとフィラーの表面処理技術により、コンポジットレジンに求められる性能を総合的に付与することに成功している。
「アイゴスボンド」は、同社がボンディング材成分の接着性モノマーの分子構造から探索と検討を重ねて開発した新規ボンディング材であり、歯質表面の湿潤状態に影響されにくく、エナメル質、象牙質ともに高い接着性が得られるという優れた特徴を有している(図1右)。
「フッ素徐放性」と「高強度」を両立したアイゴス
フッ素徐放性を有する歯科材料はフッ化物イオン徐放後に材料が劣化しやすいため、強度とフッ素徐放性の両立は困難な課題の1つである。「アイゴス ユニバーサル」においては、表面処理が施されたフッ素徐放性フィラーだけでなく、同社のハイブリッド型硬質レジン「ツイニー」の特許技術であるセラミックス・クラスター・フィラーをさらに改良して配合することでこの課題を解決している(図2)。
「アイゴス フロー」と「アイゴス ローフロー」には、約200nmの非常に微細なガラスフィラーが配合されている。これにフッ素徐放性フィラーを適量加えることによって、レジンの強度を維持しながらフッ素徐放性も実現している。
「アイゴス」の強度はJIS規格(JIS T 6514:歯科修復用コンポジットレジン)に準拠し、3点曲げ試験で評価されている。つまり、サーマルサイクル後(4〜60℃、5,000回)でも高い強度を維持することが確認されている(図3)。「アイゴス」のフッ化物イオンの徐放量を図4に示すが、半年以上の長期にわたってフッ化物イオンを安定して放出することが確かめられている。
さらに長期間の使用を想定すると、いずれフッ化物イオンが枯渇すると考えられるが、「アイゴス」はフッ素配合歯磨剤を用いてブラッシングすることでフッ化物イオンがリチャージされることが確認されている4)。
筆者らは、「アイゴス」がう蝕原性菌であるStreptococcus mutans(以下、S.mutans)の付着に影響を及ぼすことを確かめている。S.mutansを「アイゴス」の試験片上で培養し、試験片に付着したS.mutansの菌数に応じて生成されるホルマザン(オレンジ色)の吸光度を測定した(図5)。オレンジ色が濃い(吸光度が高い)ほどS.mutansの菌数が多いことを示しているが、フッ素徐放性が付与されていない硬質レジンと比較して、「アイゴス」ではS.mutansの菌数の減少が認められた。
「高い接着強さ」と「湿潤状態でも接着性」を有するアイゴスボンド
「アイゴスボンド」には、同社が開発した両親媒性の「新規リン酸モノマー」が配合されている(図6)。このリン酸エステル系の接着性モノマーは、水にもモノマー成分にも容易に溶解する両親媒性の性質を有する。この性質によって脱灰作用を示すだけでなく、歯質に対する浸透性や濡れ性、均一性が向上し、安定した接着性が得られるようになっている。
「アイゴスボンド」の特徴をもう少し詳しく述べると、以下のごとくである。
1.歯質表面の水分に左右されにくい接着性
エナメル質と象牙質の両歯質に対して優れた接着強さを有している。さらに、一般的に接着が難しい湿潤状態の歯面に対しても強い接着性が得られる。
2.採取後に相分離しない優れた均一性
両親媒性リン酸モノマーの効果により、採取後に時間が経過しても有効成分の相分離が生じない。さらに、エアブロー乾燥後も有効成分が相分離することなく、均一性を維持することができる。
3.シンプルな操作手順
歯質に対してエッチングやプライミング処理なしで簡便な操作で接着できる。
「アイゴスボンド」の接着性は、牛歯に対する引張接着試験によって評価されている。口腔内は湿度の高い環境であり、窩洞形成時に歯面を十分に乾燥できない状況も考えられるが、「アイゴスボンド」はエナメル質、象牙質ともに良好な接着性を示し、湿潤状態でも接着強さの大きな低下はみられない(図7)。これは、新規モノマーの両親媒性によりボンディング材の歯面に対する濡れが乾燥状態でも湿潤状態でも良好であり、均一性を維持することによって再現性の高い安定した接着性を実現しているためと考えられる。
アイゴス&アイゴスボンドの応用例
症例1:のう蝕処置
唇側歯面のう蝕を主訴に来科した(図8a)。ラバーダムを装着後、ダイヤモンドおよびスチールバーにてう蝕を除去したのち、窩洞形成を行った(図8b)。その後、アイゴスボンドにてボンディングを行ったのち、アイゴス フローA3を充塡し、10秒間光照射し、研磨を行った。処置後2ヵ月が経過したが、安定した色調を保持している(図8c)。
症例2:咬合面の二次う蝕
咬合面のう蝕を主訴に来科した。同歯は以前に他院にて充塡処置を受けていたが、咬合面に二次う蝕が認められた(図9a)。ラバーダムを装着し、ダイヤモンドおよびスチールバーにてう蝕を除去したのち、窩洞形成を行った(図9b)。アイゴスボンドにてボンディングを行い、アイゴス ローフローA2を充塡し、10秒間光照射したのち、研磨を行った。操作性は良好で、色調も安定しており、2ヵ月経過した時点でもまったく問題はない(図9c)。
術者に優しいコンポジットレジン
本稿で紹介した「アイゴス」は、フッ素徐放性を維持しつつ、強度を保つためにフィラーテクノロジーを主としたさまざまな改良が施されている。一方の「アイゴスボンド」は、新規リン酸モノマーにより安定した接着性が得られるだけでなく、テクニックエラーも起こりにくい。したがって、アイゴス&アイゴスボンドは術者にやさしいコンポジットレジンといえよう。
【参考文献】
- Harry F. Albers(著), 桃井保子(監訳):歯冠色修復 充塡の基礎とテクニック 9th edition. Chapter 4:57-68,永末書店,京都,2006.
- 山本一世:コンポジットレジン修復における接着システムの変遷. JICD, 45(1):85, 2014.
- アイゴス・アイゴスボンド 製品パンフレット.山本貴金属地金㈱,大阪,2015.
- 水田悠介,松浦理太郎,坂本 猛,加藤喬大,山本哲也:フッ素配合歯磨粉でのブラッシングによる新規コンポジットレジン「アイゴス」のフッ素リチャージ能の評価. 日本歯科保存学会秋季学術大会プログラムおよび講演抄録集 (143回), 112:41, 2015.
- 歯科用ボンディング材の基礎知識と製品レポート. 山本貴金属地金㈱,大阪,2015.
山本 哲也
高知大学医学部 歯科口腔外科学講座
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