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臼歯部のバルクフィル技術用ナノハイブリッドORMOCER

完成した高度に研磨された修復。(写真提供:Jurgen Manhart教授)
Prof. Jürgen Manhart, Germany

Prof. Jürgen Manhart, Germany

水. 13 7月 2016

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臼歯部のダイレクトコンポジット修復は、最新歯科学における標準的治療の一部となっている。咀嚼による負担がかかる臼歯部でも、この修復法の優れた実績が多数の臨床研究で証明されてきた。この処置は通常、緻密な積層技術で実施されている。 審美的に優れたコンポジットが積層技術の適用に複数色提供される可能性に加えて、 使い方もシンプルで短時間に処置することができ、より経済的な臼歯用のコンポジットには、大きな需要がある。さらに、硬化深度の増加と相まって、これまで以上にコンポジットによる修復が普及すれば多くの需要を満たすことができる(バルクフィルコンポジット)。

近年、ダイレクトコンポジット修復の分野で利用可能な製品の種類は大いに拡大された。[1-3]従来のユニバーサルコンポジットに加えて、患者の審美的要求の高まりが、多くの「審美的コンポジット」が発売されるという結果をもたらしており、十分な数のシェードと種々の等級の透光性および不透明度を有するコンポジット素材が提供されている。[4]オペークデンチンシェード、半透明のエナメルペースト、そして必要に応じてボディーシェードなどが、マルチカラーレイヤリングテクニック(複数色による多層技術)を用いた審美的に優れたダイレクト修復を可能にしている。これらは歯の硬組織とほとんど区別がつかず、オールセラミック修復の審美性に匹敵する。こうしたコンポジットシステムには、種々のシェードと等級の透光性を備えた30以上のコンポジット素材から構成されているものもある。しかし、このような素材を扱うには適切な経験が必要であり、主として前歯部では2、3の異なる不透明度と透光性のコンポジットによる積層技術が必要となる。[4,5]

光硬化コンポジットは、重合特性と硬化深度の制限により、一般に厚さが2 mmを超えない層を徐々に増やす積層技術が使われている。各層は、光照射器の強さおよびコンポジットペーストの色や透光性によっても異なるが、10~40秒の曝露時間で別々に重合される。[6]従来のコンポジット素材は、厚いコンポジット層ではコンポジットレジンの重合が不十分となり、機械的および生物学的性質に劣るという結果をもたらしていた。[7-9]コンポジット層の厚みを2 mmにすることは、特に大型の臼歯窩洞では非常に時間のかかる処置となる可能性がある。そのため近年では、この範囲の適応を目的として、シンプルに迅速に使うことができる、より経済的なコンポジットベース素材にかなりの需要がある。[10]この需要を満たすために、ここ数年バルクフィルコンポジットが開発されており、十分に強力な硬化光を照射すれば、簡易化された適用技術により、4~5 mmの層でも10~20秒の短い硬化時間を増やすだけで、窩洞に迅速が充填できるようになった。[11, 12, 6, 13, 14]

文字どおりに解釈すれば、「バルクフィル」とは、積層技術の必要なく、一括で窩洞の充填出来ることを意味する。[15]プラスチック修復機材では現在、セメントおよび化学的に活性化されたコンポジットまたはデュアルキュア型支台築造コンポジットでのみで一括充填が可能となっている。しかし前者は、永久歯列の咀嚼の負担がかかる臼歯部では、長期的に見て臨床的に安定する修復に十分な機械的性質を持たず、その結果、仮修復または長めの一時処置としての使用にのみ適している。[16-18]後者は、修復材として承認されておらず、操作の観点(たとえば咬合面の形成)からもそのような適応には適していない。臼歯部における一括充填に利用可能なバルクフィルコンポジットを、さらに詳細に調べたところ、実際の臨床窩洞はこれらの素材に明記された最大硬化深さ(4~5 mm)よりも深いことから、真の意味でのバルク素材ではない。[19,20]とはいえ、適切な素材を選択すれば、8 mmまでの深さの窩洞を2層で充填することは可能であり、これは日常の臨床現場で遭遇する欠損範囲の大部分をカバーする。

ほとんどのコンポジットは、従来のメタクリル酸の化学的性質に基づく有機モノマーマトリックスを含有する。[21]シロラン技術[22-27]およびORMOCER の化学的性質[23-35]が、代替的アプローチを示している。ORMOCER(organically modified ceramics)は、有機的に修飾した非金属無機コンポジットである。[36]ORMOCERは、無機高分子と有機高分子の中間に分類され、無機と有機の両方のネットワークを有する。[37,38,34]この素材群は、ドイツ・ヴュルツブルクのフラウンホーファー協会ケイ酸塩研究所によって開発され、歯科産業のパートナーと連携して1998年に歯科修復素材として初めて市販された。[33,34]それ以来、この応用範囲でORMOCERベースのコンポジットは注目に値する一層の発展をしてきた。しかし、ORMOCERの利用は歯科修復に限定されない。これらの素材は電子、マイクロシステム技術、プラスチック精製、保存、耐腐食被覆、ガラス面の機能性被覆および高度耐性傷防止保護コーティングなどの分野で、何年にもわたって利用に成功してきた。[39-41]

ORMOCERベースの歯科修復コンポジットは、現在、VOCO(Admira製品シリーズ)およびDENTSPLY(Ceram·X)という歯科材料企業2社から購入できる。これまでに歯科用ORMOCER製品では、加工性を向上させるために、メタクリル酸が追加され、純粋なORMOCERの化学的性質(開始剤、安定剤、色素および無機充填剤と同様に)に加えられた。[41]したがって、より正確にはORMOCERベースのコンポジットと言える。

製造企業によると、新たなバルクフィルORMOCER Admira Fusion x-tra(VOCO社製)は、2015年に発売され、マトリックスに、ORMOCER以外の従来のモノマーはもはや含まれない。それは、無機フィラー含有量が84重量%であるナノハイブリッド充填剤技術を特徴としている。ユニバーサルシェードが入手可能であり、重合収縮はわずか1.2容量%で、その結果、収縮応力が低くなっている。Admira Fusion x-tra は、各層20秒間光硬化させ(硬化光強度> 800 mW/cm2)、4 mmまでの層に適応可能である。Admira Fusion x-traの可鍛性の粘稠度および他の材料特性により、歯科医はバルク技術を用いて単一素材で窩洞を修復できる。追加のコンポジットによる咬合面被覆層――流動性バルクコンポジットが用いられるとき必要に応じて――はもはや必要ではない。

臨床例
47歳の患者が、残留アマルガム充填物を歯冠色修復に徐々に交換するために当院を受診した。最初の治療で、46番の歯の古いアマルガム充填を取り換えた(図1)。冷温刺激に対して歯は直ちに反応し、打診も正常であった。可能性のある代替治療法とその費用を説明したものの、患者はバルクフィル技術を用いたAdmira Fusion x-traコンポジット充填を選択した。

治療は、フッ化物不含予防ペーストとラバーカップで歯を徹底的にクリーニングすることから始め、外側の沈着物を除去した。Admira Fusion x-traはユニバーサルシェードのみ利用可能なので、歯のシェードについて詳細な決定は不要であった。局所麻酔薬投与後、アマルガムを注意深く除去した(図2)。陥凹後、窩洞をファイングリットダイヤモンドバーで整え、歯を隔離するためにラバーダムを装着した(図3)。ラバーダムは、施術部位を周囲から隔離し、清潔かつ効果的な作業を促し、作業域を血液、歯肉滲出液および唾液などの汚染物質のない状態に保つことを可能にする。エナメル質および象牙質の汚染は、歯の硬組織へのコンポジットの接着を大幅に低下させることになり、修復物の最適な辺縁封鎖性を脅かし、長期的に保持できない可能性を高める。さらに、ラバーダムは患者を粘着剤などの刺激性物質から守る。このようにラバーダムは、接着技術において品質を確保し、作業を円滑に進めるうえで不可欠な補助器具である。ラバーダムの装着に必要な最低限の労力は、コットンロールの交換が不要であり、患者が洗口を求めずにすむことによって相殺される。

その後、窩洞を金属製の隔壁(セクショナルマトリックス)で分離した(図4)。歯の硬組織の接着処理には、ユニバーサル接着剤Futurabond M+(VOCO社製)を選択した。Futurabond M+は、最新のワンボトルの接着剤で、あらゆるコンディショニング技術、すなわちセルフエッチ技術およびリン酸ベースのコンディショニング技術(エナメル質選択的エッチングまたはエナメル質と象牙質のetch-and-rinse前処理の完了)に適合する。本症例では、エナメル質選択的エッチング技術を選択し、35%リン酸(Vococid,、VOCO社製)でエナメル質の辺縁を処理し、30秒間作用させた(図5)。その後、酸を圧縮空気およびウォータージェットで20秒間洗い落とし、余分な水分を圧縮空気で注意深く窩洞から除去した(図6)。

図7は、エナメル質と象牙質にマイクロブラシで多めのFuturabond M+を塗布したところを示した。接着剤は、アプリケーターによって20秒間完全に歯の硬組織に塗り込まれた。その後、溶媒は乾燥したオイルフリーの圧縮空気で注意深く蒸発され(図8)、接着剤が10秒間光硬化された(図9)。その結果、光沢のある窩洞表面となり、むらなく接着剤で覆われていた(図10)。艶のないように見える窩洞領域があれば、この領域への接着剤の塗布が不十分だったことを示すため、注意深くチェックする必要がある。最悪の場合、これらの領域の修復物接着の低下と象牙質封鎖性の低下の両方をもたらし、術後疼痛を引き起こす可能性がある。目視でそのような領域が認められれば、再び接着剤を追加してその部分を選択的に塗布する必要がある。

次のステップで、窩洞は前もって歯周プローブで測定されており(ボックス底から咬合辺縁隆線まで6 mm)、近心のボックス領域にAdmira Fusion x-tra を4 mm未満を残して全窩洞の残りの深さまで充填した。同時に、近心隣接面を辺縁隆線の高さまで完全にビルドアップした(図11)。 修復材は重合ランプ(光度> 800 mW/cm2)で20秒間硬化した(図12)。近心隣接面のビルドアップによって、元のII級窩洞が有効I級窩洞に変わり、その後、マトリックスシステムはもはや必要なくなったので、除去した(図13)。以降の治療の過程で、咬合面の形成を行う手用器械が窩洞に近づきやすくなり、また治療領域の視界が良くなったため、その後塗布される修復材の層の視覚制御を改善することができた。Admira Fusion x-traの2回目の追加分を窩洞の残存量に完全に充填した(図14)。機能的ながら単純に咬合面形態を成形した後(図15)――確実に迅速な仕上げと研磨も可能となったが――修復材を再び20秒間光硬化させた(図16)。

ラバーダムを除去し、回転用器具および研磨ディスクで注意深く仕上げ、静的、動的に咬合を調節した。ダイヤモンド粒子入りシリコーンポリッシャー(Dimanto、VOCO社製)を用いて、修復物を滑らかで光沢のある表面に仕上げた。図17に完成したダイレクトORMOCER 修復を示しているが、解剖学的に機能する咬合面、生理学的に形成された隣接点、そして審美的に許容可能な外観である元の歯の形状を再生することができた。最後に、フォームペレットを用いて、歯にフッ素バニッシュ(Bifluorid 12、VOCO社製)を塗布した。

最後に
ダイレクトコンポジットベースの修復材を使用する重要性は、今後ますます高まっていくであろう。この方法は、咀嚼の負担がかかる臼歯部における、科学的に証明された高品質な永久修復法であり、これらの信頼性は文献においても実証されてきた。大規模な再評価の結果、臼歯部のコンポジット修復の年間損失率(2.2%)は、アマルガム修復の年間損失率と統計的に差がない(3.0%)。[43]

ヘルスケア部門での経済的圧力の高まりは、時間のかかる高品質な修復と並行して、より単純でより速く、そして費用対効果の高い基本的治療の必要性を生み出す。これまでかなりの期間、この目的のために市場には硬化深度の最適化されたコンポジットがあった。これは臨床的かつ審美的に許容しうる臼歯部修復を行うために用いることが可能で、従来のハイブリッドコンポジットと比較してより費用対効果が高いものである。[44,45]伝統的なメタクリル酸の科学的性質を伴うバルクフィルコンポジットに加えて、硬化深度の大きいコンポジット接着剤の分野で販売されている製品の範囲は、ナノハイブリッドORMOCERバージョンで拡大されている。

編集後記:参考文献一覧は発行元から入手できる。この論文は、Dental Tribune Nordic Vol.1, No.3で発表されたものである。
 

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