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歯の生体力学的原則に基づく侵襲が最小限のアプローチ

支台歯形成をスキャニングしたPlanScanスクリーンショット (写真:Michael L. Young)
Dental Tribune International

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金. 23 9月 2016

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歯科医療は従来から修復的モデルでありました。疾患が発現するのを待って、発現したらそれを修復してきたのです。ある疾患が誰に発現するのかを予測でき、初期のうちにその発現を予防できるとしたら、どうなるでしょうか。このアプローチは歯科患者の長期的な口腔衛生と健康全般に対してどのような影響を及ぼすでしょうか。

歯科患者の多くは「壊れてなければ、治さないでください」と訴えてきます。患者は随伴する障害がなければ口腔内の状態に気づかないことが多く、目に見えない問題に対する解決策を受け入れようとはしません。こうしてリスクを抱えた歯は、疼痛、感染または歯の破折などの生活の質に関わる問題が起きるまで、未治療のまま放置されます。

Geurtsen、SchwarzeおよびGunay (2003)によれば、歯根破折は3番目に多い歯の喪失の原因となっています。歯の喪失は生活の質に関わる問題です。歯を喪失した場合、欠損を補うことが理想的な治療となります。しかし、それにはさらに費用と手術が必要です。欠損を補わないでいると結果的には、さらに費用や治療が必要になるか、他の歯を喪失することもあり得ます。歯科医療に対する対処的アプローチの結果は、良くても歯の長期的予後が少なくなるか、最悪の場合には歯の喪失に至ります。

このような事態は、歯科医療のウェルネス(健康)モデルへのパラダイムシフトによって回避できると考えられます。ウェルネスモデルは、先を見越した予防的な治療となります。歯と患者へのリスクを増大させるような歯の状態を特定でき、その影響が出る前にその病態を治療できれば、リスクを効果的に低下させることができます。その効果によって予後は改善し、結果的に医療費が軽減され、生活の質も改善します。

私たちにはさらに改善できることがあります。

生体力学的原則
1979年にTidmarshは「歯はあらかじめ圧縮力を加えた積層板のようなものだ」と述べています。歯は屈曲しても元の状態に戻ります。しかし、長期にわたり荷重がかかれば、歯は恒久的に変形してしまいます。

1979年にGrimaldiは「変形は、歯の構造がどれだけ喪失しているかと関連性がある」と述べています。

窩洞が形成もしくは、根管治療を行うアクセスを行うと、圧縮力を加えられた状態が壊されます。そうなると歯はさらに変形し、破砕しやすくなります。過大な屈曲により、ひび割れが生じます。

Larson、DouglasおよびGeistfield(1981)は、咬頭間距離の3分の1を占める修を行うと、未修復の歯の強度の半分以下になることを明らかにしました。歯を破壊するのに要する荷重は、関係する修復が咬合面のみの場合と近心面または遠心面を含む場合では同程度でした。

Geurtsen、SchwarzeおよびGunay(2003)は、咬頭破損のリスクは修復の峡部幅が咬頭間距離の50%である場合に大幅に増大することについて見解が一致しています。Geurtsenらは、アマルガムまたはレジンによる修復は、咬頭間距離の4分の1から3分の1を超えるべきではないと述べています。窩洞形成において除去される歯構造が多ければ多いほど、荷重の増大に伴って歯は屈曲するようになります。[1]

咬頭破損を伴う歯は、それでも修復可能ですが、歯冠の保持や機能的・非機能的力による屈曲への抵抗という点で、残りの本来の構造が少な過ぎることから、理想的な状態よりは予後が不良となります。これらの歯は数年の間持ちこたえますが、さらに亀裂ができたり、その亀裂が広がるなどして、最終的に歯肉縁またはその下部で破損する可能性があります。

歯内治療歴のある歯は歯肉下の破砕のリスクが高く、歯は修復不可能または予後不良となります。[2] そのため、最初からそのような亀裂の形成を予防することが重要となります。

これらの歯の過度の屈曲を予防し、亀裂の生成を防止するにはどうすればよいでしょうか。接着によるインレー修復が歯の強化や咬頭破損の防止になるのではないかと考える研究者もいます。

大きなMOD形成部を伴う上顎小臼歯における静荷重試験での接着によるインレー修復の研究では、接着されたセラミックまたは合成物は歯を強化しないという結論が出されています。[3] 接着されたレジンまたはセラミックのインレーは、咬頭変形や破砕を防止できないと考えられます。しかしながら、接着されたセラミックのオンレーは、臼歯の修復において効果的な対処法のひとつであることが明らかにされています。[4,5]

BakemanとKois(2009)は、接着によって歯を保持する修復方法であるポーセレンはすべて、咬頭を覆う一方で、軸壁上の歯構造の除去が一部に限定されるか、またはまったく不要となる可能性を提供すると述べています。その結果、歯のもともとの構造が温存され、負荷下でも屈曲が少なくなるため、恒久的な変形や破砕のリスクが低下します。

接着によって保持された歯の修復の失敗率は、支台歯形成が象牙質を含む割合が多いほど上昇するため、エナメル質を可能な限り温存することが重要です。[6] さらに咬合面削除後に残存するエナメル環の大きさは、支台歯形成における接着または合着によるアプローチ間の重要な決定因子となります。

咬合面削除量が増加または摩耗した歯での咬合面削除は、エナメル環の幅の小さな支台歯形成をもたらします。1.5 mmから1 mmへのエナメル環の厚さの減少は、失敗率を劇的に増加させます。幅1 mm未満のエナメル環は接着剤を用いて保持する修復については禁忌であると考えられ、密着によって保持する修復が必要となる可能性があります。[7] エナメル質に接着された修復物はまた、微小漏洩が全くないか微量なマージンを提供します。[8]

まとめ
AminianおよびBrunton(2003)は「健全な歯の構造の除去は生物学的悪影響をもたらす。したがって健全な歯の構造の温存は、生物学的リスクを最小限にとどめる適切な戦略である」と述べています。

接着によって歯を保持する修復方法は、歯の元来の外観と機能を回復するとともに低侵襲性の可能性を提供します。また歯の構造のより保守的な除去は歯髄に対するリスク低下を意味します。

逆に密着によって保持された修復はより侵襲的であると言えます。多くの構造の除去は歯髄のリスクを高め、強度を低下させ、破砕を生じかねない歯の屈曲を増大させます。

保持および抵抗の形態は歯冠を保つ上で不可欠であることから、歯成形もさらに重要です。

低侵襲性の接着によって保持される修復物を製造することは、技巧所では可能です。しかしながら、チェアサイドCAD/CAM法でも、1回目の診療で技巧所と同様の品質の優れた修復物を製造することが可能です。これは、保持および抵抗の形態を欠いている支台歯のためのプロビジョナル作成という問題がなくなることを意味しています。

さらに、患者は従来からの印象法よりはデジタル印象法を好むことが明らかにされています。[9-13]

Yuzbasiogluら(2014)も、デジタル印象法は従来の方法より迅速であると認めています。この知見は、デジタル印象法を用いることで作業工程の効率が改善されることを明らかにしたPatzelt、Lamprinos、StampftおよびAtt(2014)によっても確認されています。

症例報告
患者は上顎右側第一大臼歯および第二小臼歯の歯の修復のために来院しました(図 1a)。既存の修復物のサイズから、これらの歯は構造的に不具合があると診断されました(図 1b、c)。治療を行わない場合の予後が良くはありませんでした。

この修復は、PlanScanチェアサイドCAD/CAM法で、一度の診療で完了することになっていました。

8.4%のオンセット重炭酸ナトリウム注射液(米国薬局方収載の中和用添加溶液)で緩衝させた1:100,000エピネフリン含有の2%リドカイン1.7 ccによって局麻酔を実施しました。

バー330を用いてデプスガイドのための切れ込みを作成しました。これは2 mmの切断表面を持ちます(図2a-b)。これによって、修復物の咬合面に2 mmの厚さの材料を収容するための2 mmの咬合面削除量が確保されます。

バーKS7を用いてこの切れ込みの深さまで大まかな削除が完了しました(図4-8b、9c)。適切なクリアランスの有無をCommon Sense Dental Products社の2 mmのプレップチェックで確認しました。

大まかな咬合面削除が終了した後、残りのエナメル環を測定しました(図9a、b)。エナメル環は1.5 mmであり、これで接着剤によって保持される修復の準備が整いました。エナメル環が1 mm未満の場合には、密着によってクラウンを保持するための保持力を生み出すために軸壁上に歯を形成する必要がありました。

第一大臼歯における既存のレジン充填物および第二小臼歯におけるアマルガム充填物は除去しました。形成された歯の咬合面は、滑らかな形成物にするためにバーKS2を用いて隣接面と一体化させました(図10-15c)。修復物を保持するために形成された保持または抵抗の形態は認めませんでした。

軟組織のマネイジメントは、ビスコスタット クリアー(歯肉止血ゲル、25%(m/m)塩化アルミニウム)で行いました(図16および17)。歯肉退縮は2コードシステムを用いて行いました。最初にUltradent社のNo.00サイズのコードを双方の形成物の近心面と遠心面に設置しました(図18および19)。

追加の止血ゲルを2番目のコードの前に用いました。2番目のコードはUltradent社のNo.2サイズのコードです(図20および21a)。軟組織の適切な退縮には設置された双方のコードで最低4分はかかります(図21b)。

歯肉退縮のために4分待つ間に、対合歯についてデジタルモデルを作成するためにPlanScanワンドを用いてスキャンしました(図22a-24c)。次に最大の咬合位で歯を十分に咬合した状態で頬側面をスキャンしました。このスキャンは支台歯および対合歯のスキャンとともに、咬合のモデルを作成するために利用しました(図25a-26c)。

形成された支台歯のスキャンの前に、2番目のコードを湿らせてから除去しました。コードは除去の際の組織の攪乱のリスクを下げるために湿らせたままとしました。No.00のコードは歯成形のスキャンの際にはその部位に留置したままとし、歯は正確なスキャンを可能にするために乾燥状態としました。

形成された支台歯のスキャンの際に適切なデータが入手できたことを確認するために、この形成モデルをデータ密度ビューにおいて検証しました(図26c)。

十分なデータが得られない部位については、それらが得られるまでさらにスキャンを行いました。次に形成モデルを位置づけました(図26d)。位置づけの目的は挿入経路ではなく最適なデザインを決定することにあります。次にマージンをトレースし、ICEモードで表示させました。このモードは、スキャンした画像の三次元化によりマージン、歯および組織の明瞭な画像を提供するものです(図26e、f)。

修復の最初の案は、ライブラリーAと自動生成機能を用いて作成されました。これは近くにある歯を用いてライブラリーの歯の形態を生成する方法です(図26g-i)。

修復案の材料の厚さをチェックしました(図26j、k)。複数のツールを用いて当初案を望ましい結果になるように改善しました。ラバートゥースツールを用いて解剖学的構造に微調整を加えました(図26l-n)。平滑面ツールによって表面を平滑にしました(図26o、p)。

咬合接触の位置および強度を確認し、調整しました(図26q)。次に隣接面コンタクトの強度および位置を確認し、必要に応じて調整しました(図26r)。

次にミリングに先立って最終案を確認しました(図26s、t、w)。断面平面画像を用いて、歯成形と修復物との間の間隙をチェックしました(図26u、v)。

これは、形成物上に最終修復物が完全に定着することを妨げかねない部位または過剰にミリングされる可能性のある部位のチェックを目的として行われます。過剰なミリングは材料の厚みを減少させます。この画像は軸壁上の形成物の欠如を示しており、採用すべき最小侵襲アプローチを明らかにします。スプルーの位置を確認し、ミリングプレビューで必要に応じて調整しました(図26x)。

次に最終的な装着前に修復物の適合の具合を口腔内で確認しました(図26y、z)。クリスタライゼーション、ステイニングおよびグレージングに先立って、e.Max CADでは口腔内で咬合の状態を確認できます。接着する前のエンプレスCADブロックによる咬合状態のチェックは推奨されません。

次に第一大臼歯の修復物は、Programmat CS2加熱炉(Ivoclar Vivadent社製)でグレージングとクリスタライゼーションを施しました。この修復物はグレージングとクリスタライゼーション終了後に室温になるまで冷却してから、さらにスチームクリーナーで洗浄しました。5%フッ化水素酸を用いて修復物をe.max修復物を60秒間エッチングしました。エンプレス修復物は20秒間エッチングしました。

このエッチング液はスチームクリーナーで洗浄しました。Ivoclean(Ivoclar Vivadent社製)で、双方の修復物の内表面を20秒間洗浄しました。Monobond Plusプライマー(Ivoclar Vivadent社製)を修復物の内表面に60秒間塗布しました。このプライマーは60秒後に軽くエアーをあてて乾燥させ、修復物の外表面上にプライマーが残らないように注意しました。

歯はIsoliteを用いて隔離しました(図27)。Multilink Primer A/Bを、マイクロブラシを用いて30秒間接着表面全体に塗布しました。余分に塗布された液は、流動的な液体膜が視認できず、光沢のある表面だけになるまで、エアーを吹き付けて消失させました(図28および29)。

OptraStick Application Aid(Ivoclar Vivadent社製)を用いて歯の上に修復物を定着させました。オンレーおよび部分的クラウンでは扱いが困難と考えられるためです。各歯間部位にBluephaseキュアリングライト(Ivoclar Vivadent社製)を3秒間照射することで、当初のタックキュアリングを行いました。次にBrasseler社の36/37スケーラーを用いてレジンを簡単に除去しました。レジンセメントの酸素遮断層を阻止するグリセリンゲルであるLiquid Strip(Ivoclar Vivadent社製)を最終光硬化に先立って塗布しました(図30おおよび31)。

次に修復物の最終光硬化を完了しました(図32)。光硬化が終了するまで適切な組織管理が維持できるように、最終光硬化後に当初のNo.00コードを除去しました。

患者用椅子を45度の角度にして咬合をチェックしました。Bausch社製の200ミクロン厚のU字型咬合紙を最初に用いて、チューインガムを噛むように、この紙を噛むよう患者に指示しました。次に赤色のTroll Foil咬合フォイルを真っすぐ上下に噛むよう指示しました。干渉を排除し、材料破砕のリスクを減らすために、赤色の紙でカバーされていない噛む動作による痕跡部分を除去しました(図33a-c)。

次に修復物を研磨しました(図34)。第一大臼歯の e.max修復物については、バーはNTI Cera Glazeの緑色、青色、黄色の順としました。第二小臼歯のEmpress修復物については緑色の荒研磨器は用いませんでした。

歯の破折のリスクが低くなり、歯へのさらなるリスクが最小限に抑え、審美的・機能的にも自然である侵襲が最小限の修復物が最終的な治療として完成しました。(図35a-36b)。

編集者注:本稿はデジタル歯科学の国際雑誌CAD/CAM(2015年1月号)で公表されたものです。参考文献の全リストは出版社より入手できます
 

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