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新たなデジタル歯科技術によるバリューチェーン(価値連鎖)の変化

プロセス統合BDCreator CADソフトウェア。(画像:Merz Dental社)
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月. 26 9月 2016

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「バリューチェーン」の定義によって、生産の各段階は秩序を備えた一連の活動であるとされています。この一連の活動は価値を生み出し、資源を消費し、プロセスの中で相互に関わり合うものです。マイケル・E・ポーターが取り上げているアプローチでは[1]、「あらゆる企業は、自社の製品の考案、生産、販売、配送および支援のために実施される活動の集合体である。これらの活動はいずれも、バリューチェーンの概念を用いて表すことができる」としています。別の定義では、価値(付加)連鎖を「製品またはサービスが出発原料から最終用途まで通過する転換プロセスの各段階」と説明しています[2]。付加された価値は、製品が生み出す収入と使用した資源との差となります。

具体的には、バリューチェーンは個々の市場参加者によって加えられたあらゆる付加価値(マージン)の合計によって表されるということです。バリューチェーンに参加したいと願う市場参加者全員が、ひとつの業界のバリューチェーンシステムを作り上げています。この概念を歯科医療業界に当てはめると、「業界、歯科技工所、歯科診療所および患者」という市場参加者の具体的な状況を考慮に入れなければならないということになります。そこに関与する誰もがバリューチェーンの一部なのです。かつては業界が消耗品または器具を歯科技工士や歯科医のために製造することで付加価値を生み出し、歯科技工士は伝統的な歯科修復物を作成することで付加価値を創造し、歯科医は患者にサービスを提供することで付加価値を作り出してきました。この20-30年の間に、主としてデジタル技術の導入によって、このチェーンはますます変化してきています。以下、デジタル技術の利用をベースにしたいくつかの展開と、補綴治療全体をデジタル技術に統合するための未来志向のプロジェクトについて紹介します。

アナログからデジタルへ(職業面での変化)

歯科医療におけるデジタル技術の分野は全体にきわめて広範であり、本稿ではその全容に触れることはできません。例えばデジタル技術は、以下に関して影響を及ぼしています。

  • 歯科技工士の職業面については、もはや「石膏部屋」ではなく、コンピュータワークステーションがその主役を務めています。しかしながら、その結果として、求められるものも変化しています。つまり、現代の「高い技能を持つ専門職」として将来に要求されていることは、クラウン、ブリッジ、テレスコープ、アバットメントなどについてのコンピュータ支援設計(CAD)と、CADのデザインを削減または付加のプロセスによって作成される最終製品へと転換するミリングを行うためのプログラミングに興味をもって仕事を行うことなのです。このような要件を歯科技工士の訓練に早期の段階で組み込むことは賢明かつ不可欠なことです。
  • 歯科医療サービスの提供については、最新のデジタル器具および方法の活用をますます必要とするようになっています。将来的には、歯科医は診断を下すだけでなく、主として治療である歯の形成、手術および歯科修復物(保存的修復もしくは、補綴装置)の装着に集中するようになるでしょう。その他の業務はデジタル作業プロセスによって置き換えられるでしょう。

Sirona社のような企業が1980年代に歯科医や歯科技工室に最初のデジタル技術を導入していなければ、数十年にわたり起きてきたバリューチェーンにおける変化はおそらくなかったでしょう(図1参照)。付加価値における変化の概念は既にこのシステムでの不可欠な部分ですが、最初の段階では歯科技工室における作業手順や作業工程のみが促進・加速され、デジタル革命の初期においてスキャナーやCAD/CAMミリング装置を使用することにより、それらがより効率化されるようになりました。他の市場参加者はその後の手順においてのみ加わることになりました。例えば、ドイツや諸外国のミリングセンターおよび付加価値に参画したいと考えている業界の企業などです(図2および3)。

デジタル化-歯科技工所にとっての好機?

革新・マーケット志向の歯科技工所は、これまで長い期間にわたり、デジタル化の利点を認め、時宜を得てCAD/CAMの分野に参入したことにより恩恵を受け続けてきました。歯科技工所の広範囲のサービスは、現在の最新の構成材料およびベニアリング材料による歯科技術全体の製品に及んでいます。特にクラウンやブリッジのような標準的な修復物は、今日では既に最先端の技術となっているCAD/CAMによって作成されます。しかし、これらの変化のプロセスは、歯科技工所にどのような影響を与えてきたのでしょうか。事実、デジタルプランニングやコーディネーションプロセスでの業務の増大に向けてインハウスの製造活動に焦点が当てられるようになり、一連のプロセスが最小化されてきています。質に関しては、予想どおりではあるのですが、それほど大きな変化はありません。ただ、材質は、患者側からは色調(金色から白色)によって認識されるにすぎず、歯科修復物のフィット感・安全性は依然として歯科医療現場から得られた業務指示内容に依存していることに間違いはありません。工程数は、大きな変化が見られます。つまり今日では、機能的かつ審美的に高水準の歯科修復物を製造するために必要とされる従来型の歯科技工所でのプロセスは、わずか半分になっています。経済的見地からは、歯科技工所の所有者にとって設備投資費用が高くなることを意味しますが、同時に償却期間および数量によっては、この市場に投げ売り価格での参入を試みる市場参加者があった場合、競争力のある価格を設定できることを意味しています。

最近では、以前に比べて歯科技工所は歯科診療所に対するサービス提供者となってきており、高い技能を持つ専門職としての立場は薄れつつあります。このことは、当然のことながら熟練を要する職業にとってリスクをはらんでいるものの、同時に大きなチャンスでもあります。歯科技工所の所有者はその立地上の利点に着目し、パートナーシップの精神に則って特別のサービスと協力を提供することが可能です。

あなたはどのような歯科技工所を運営されていますか。今もなお、熟練した職人気質の強い歯科技工所に入るでしょうか?極度に不安になって、何もせずに様子をみたり、デジタル化の波に乗るために必要な経済やマーケティングの知識に事欠いたりしていないでしょうか?実際のところ、デジタル技術に関して開かれた心を持てなければ、もはや歯科技工所の世界では、主たる事業者としての役割を果たすことができなくなるでしょう。歯科診療所がデジタルワークフローに投資し、関連データを交換するようになればなるほど、歯科技工所は技術的にそれに適応し、役立つようになる必要があります。選択的なプロセスチェーンを提供することにより歯科医と患者を支援するのは、依然として歯科技工所の責任です。そのようなことからも、歯科技工所はデジタル化を好機と捉えるべきでしょう。

独立型のソリューションからバリューチェーンへ

歯科医療業界のデジタル化初期には、独立したソリューション(単一の作業手順)が存在しましたが、現在では、複雑な歯科技工所の工程が完全にデジタルベースで実施可能かどうか、ますます検討されるようになってきています。デジタル化は、インプラントナビゲーション、デジタル化による機能診断、クラウンやブリッジのような形態での審美的歯科修復物の製造から始まり、いわゆる革新的な近代的歯科技工室では、今やデジタルが主流になっています。ますますデジタル化が進んでいる歯科医療業界での次のステップは、総義歯の作成プロセスを含む、バリューチェーン全体の検討に向けた進展です。

総義歯のためのバックワード・プランニング-逆転するデジタル価値付加プロセス!

過去においては、デジタル技術の導入は主として個々の作業手順に対する解決を目的としていましたが、現在のデジタル歯科医療技術で注目されているのは全体的な付加価値プロセスです。デジタル的観点からは、残された最後のひとつのテーマおよび分野は総合補綴治療であり、これまでは副次的に扱われてきました。しかし実際には、製造を簡略化し加速する革新的なデジタルアプローチが存在します。これこそが、パイオニア的デジタル革命がデジタル歯科技術において取り組むべきもうひとつの目標です。将来のシナリオは図6に示します。

結果的には、総合補綴治療は、「愛されていない子供」としての評判に値するわけではありません。それでもなお、歯科医や歯科技工士にとって、総合補綴治療には他の補綴修復と同程度の重要性がないのです。なぜなのでしょうか。確実に言えることは、患者の治療が難しかったり、総合補綴治療が概して歯科医や歯科技工士にとって魅力がなかったりするからではありません。それどころか、精密にフィットする機能的・審美的に優れた義歯の製造は、歯科医や歯科技工士にとって大きな課題なのです。特に無歯顎患者については、顎と口の最適な再建を行うには重要な情報が欠落していることが多いため、課題となっています。主たる理由は、総義歯のために提供される歯科医と歯科技工士のサービスが広範囲かつ複雑で、そのサービスに関する料金では、発生する費用をカバーできないことです。ドイツでは、今でも毎年30万から40万個の総義歯が作成されています。

専門家の意見によれば、平均余命の延長や社会人口学的変化によって、今後もこの数字の傾向は変わらないものと考えられます。総義歯の平均合計額は約1,000から1,400ユーロになるため、この市場部門は3億ユーロを超える規模となります。これはドイツのみのことです。その結果、総合補綴治療は補綴治療の最も重要な分野のひとつとなっています。

総義歯のための今日の製造工程の複雑さを、以下のフローチャートで示します。

従来の総義歯の製造は、現在は歯科医、歯科技工士、そして患者の間の複雑なやり取りに基づいています。理想的な工程の流れでは、来院による患者と医師の話合いが少なくとも5回はあり、これは数日から数週間かかることもあります。初回の診察から初回印象、機能印象および咬合記録から最初のワックスモデルに至るまでの作業が開始され、歯科診療所と歯科技工所間の多くのやり取りを経て、最終義歯が最後の診療において設置されます。診察時の歯科医の正味の治療時間は合計で約2.5時間にもなります。さらに1回から2回の追加診察が必要となることもよくあります。1回の診察あたりでは、少なくとも5分間の計画的な準備と追跡調査時間がかかることから、5回の診察でさらに25分が追加されます。その結果、歯科医が必要とする時間は総義歯に対してすぐに合計3時間以上になってしまいます。

歯科医から指示を受ける歯科技工所では、複雑さのレベルはより高くなります。最初のモデル印象の採取から最終的な完成に至るまで、歯科技工室での作業は6-8時間に達すると予測されます。これには歯科技工所と歯科診療所との間の受け取りや配送の時間は含まれていません。義歯の組み込み後にも後作業が発生することがよくあります。これは多大な時間を要し、料金に含まれていません。

したがって総義歯作成のための通常のワークフロー(図5)では、通常の歯科医療プロセスチェーンの最後の困難さに対処し、デジタルソリューションを利用可能にするようなアプローチが切実に求められています。

将来は総義歯作成もデジタル化

これははっきりしています。現在、個々の作業をスキャナーとCAD/CAMミリング装置で簡略化する方法は存在していますが(工業的に事前に作成されたブランクから作り出した義歯床または基礎となる歯列弓)、プロセスチェーン全体への検討はこれまで行われていません。これは完全にデジタル化された開発・製造工程に基づく総義歯について、以下の図解化されたソリューションで採用されているアプローチです。全体のソリューションコンセプトはバックワード・プランニングの原則に基づいています。実質的にこのことは、優れた職人によって完成された総義歯をわずか1回の診察で患者の口腔内の状況に合致するようカスタマイズすることを意味しています。遠くないうちに全義歯の製造は、デジタル印象の採取から製造まで、完全なデジタル工程で行われるようになるでしょう。そこでは塵が生じることも石膏を使用することもまったくありません。残念なことに現在利用可能なデジタルスキャンシステムでは、1回の診察で口腔内の情報を包括的に収集するという選択肢を提供することはできません。しかしそれが可能になるのも時間の問題と考えられます。それまでは、顎関係、口蓋、中心位および審美的外観をアナログによる手法で記録し、これをデジタルシステムに移し替えることになります。この方法によって、その後に義歯を作成するためのすべてのデータがわずか1回の診察で収集されます。

この工程に続いてデジタルデータを義歯のデータベースと比較して、あらかじめ重ね合わせた歯列弓および患者によって異なる歯肉のモデリングと適合するミリングブランクを選択します。これをCAMモジュールに移行した後は、それぞれの上顎・下顎ペアのミリングだけが残されています。その後歯科技工室で仕上げを行い、組み入れのために歯科医院で2回目の診察が行われます。仕上げられた製品は機能的で、精密にフィットし、審美的に優れた歯科修復物となり、ドイツで熟練した職人によって作成されたかのような品質になります。

バルチック義歯システム(Baltic Denture System)と呼ばれるこの新たな未来志向の方法はデジタル技術を利用しており、歯科医と歯科技工士にとって経済的にも有利な全義歯を数年のうちに初めて製造するようになるでしょう。デジタル化されても、市場参加者はそのまま変わることなく、付加価値プロセスはこれまでどおり現に実施されている構造内で展開されます。

追加事業のための選択肢としてのデジタル技術

前述の製造方法を用いて、歯科技工所における少数のアナログ工程に焦点を当てることによって、歯科技工所にとっての新たな一連の事業領域が見えてきます。将来の歯科技工室は、間違いなく自らを歯科医のパートナーでありサービス部門であると捉え、「面倒な」問題を引き受ける能力を備えるようになるでしょう。さらに歯科技工室は最適な結果を確保するために顧客に関するデータの流れを管理できるようになるでしょう。デジタル技術の結果として提供できる新たな事業分野としては、審美歯科の分野が挙げられます。ひとつの例は「広がる笑顔(lacheln2go (smile to go))」の概念です。これはボランティアによって初めて作られた新たな事業としての審美歯科の概念です。素晴らしい点は二次元の審美的チェックを利用していることであり、これによって歯の状態および審美的欠陥の記録が容易になります。

結論

デジタル化の進展によって誰が勝者で誰が敗者になるかはまだわかりません。現実には、私たちはまだ最適なデジタルワークフローの終点に到達していません。デジタル工程を最新のものにし、発展させることが、依然として重要です。しかしながら、チャンスが多数派側にあるのは明らかです。さらにプロセスチェーンの最適化によって、作業結果としては、短時間で高水準の精度を達成することができます。このことは、まず義歯当たりのスタッフ費用に計上される支出の割合が低下することから、ドイツの歯科医療修復技術を国際的に拡大することも可能であることを意味します。次に歯科審美学のような新たな一連の事業の領域が創造されつつあることが挙げられます。患者も時間の節約になることから、デジタル化された生産によって利益を得ます。デジタル技術の利用とバリューチェーンの最適化によって、歯科医と歯科技工士にとってそれまでは魅力のなかった作業の採算性が上昇します。さらにはこのようにして、新たなサービス提供の領域が作り出されます。つまり新たな事業と収入の可能性が生み出されるのです。

すべてがデジタル化され、バリューチェーンが最適化されたとしても、何よりも歯科医、歯科技工士、そして患者の間の直接的な接触が治療の結果にとって依然として不可欠かつ重要であることを忘れてはなりません。それが、患者が満足できるだけでなく、日常生活において積極的になれるような審美性と機能性を持つ歯科修復物を生み出すのです。

編集者注:本稿はデジタル歯科医療の国際的雑誌であるCAD/CAM(No. 01/2015)に発表されたものです。

参考文献
1. Porter ME. The Competitve Advantage: Creating and Sustaining Superior Performance. NY: Free Press 1985
2. Harting D. Wertschopfung auf neuen Wegen. Beschaffung Aktuell 1994; 7:20-22
 

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