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口腔の健康と心身の健康、生活の質との関係はまだまだ臨床医に理解されていない シドニー大学のJörg Eberhard教授(同大・Lifespan Oral Health初代教授)が去る3月20日のWorld Oral Health Day(WOHD:世界口腔保健デー)に際し、「口腔を健康に―歯学のパラダイム変革の時」と題した講演を行った。Dental Tribune編集部では、研究および臨床における予防の役割、口腔の健康と全身との関係について、Eberhard教授と話をする機会を得た。
Dental Tribune:「口腔を健康に」というテーマにはどのような意味が込められているのですか?
Jörg Eberhard教授:過去数十年にわたる研究により、口腔疾患は全身の健康と心血管疾患、糖尿病、リウマチ性関節炎などの他の疾患に関連することが示されました。この関係は、疫学研究、臨床介入試験、正常な生物学的メカニズムに基づいています。しかし、口腔の健康と全身の健康を結びつけるという見方は、臨床に定着していないのが現状です。「口腔を健康に」は公衆衛生的な戦略、すなわち、一般への啓発として用いています。
口腔の健康は全身の健康にどのような影響を及ぼすのでしょう?
う蝕と歯周病は世界で最も多い疾患で、多くの人が治療を強いられています。事実、う蝕は疼痛、歯の喪失、多額の治療費につながります。う蝕は治療を行うために子どもが学校を休まなければならない状況を生み出しますし、高齢者が十分な栄養を摂取し、健全な社会生活に参加する能力を低下させ、医療費を増大させます。一方、歯周病は口腔に限定されたものではなく、数十年にわたって炎症性メディエータと細菌を血中に放出します。これにより、アテローム性動脈硬化プラークの形成が開始、または拡大し、ひいてはそれが脳卒中や心臓発作につながり、糖尿病の前段階または糖尿病状態の血糖値に悪影響を及ぼす場合があります。
口腔の健康と心身の健康、生活の質との関係は、一般の人々に十分認識されていると思いますか?
まだまだだと思います。口腔と全身の健康の関係は、患者の心身に大きな影響を与えうるにもかかわらず、多くの医療者でさえ認識が足りていないのが現実です。一般大衆と医療者にそれを伝えていくことは、歯科医師の主な課題です。さらに医学生への教育も必要です。
この問題についての歯科業界および国の医療政策の役割をどのように考えていますか?
歯科業界は、歯科医療がう蝕と歯周病に限定されたものではないことに気付かなければなりません。歯科は世界の多大な治療ニーズを軽減し、公衆衛生の改善を目的とする取り組みを行うべきです。医療政策として、国民の健康を維持、または改善したいのであれば、口腔の健康が全身の健康に不可欠であり、医療サービスとして切り離せないことを認識すべきです。
歯科・医科間の学際的交流は増えるべきでしょうか?
歯学、医学、その他の医療専門職の間の交流は、今後の医学研究と臨床医療の発展に欠かせないものです。医学研究は、これまでさまざまな臓器の相互依存関係とそのメカニズムを繰り返し証明してきました。それが、健康を全身的な観点から見るという、臨床での意思決定に大きく影響しているのです。
歯周病などの疾病が増加する一方で、予防への認識が高まっていますが、今日の歯科医療の立場はどのようなものですか?
フッ化物応用の導入以来、歯科研究団体と歯科医師会は数十年にわたりそれに頼り、他の予防手段を軽視し、研究・臨床活動の主眼を修復治療に置いてきました。この傾向は、歯科インプラントのような人工材料の乱用に代表されます。天然歯は、適切な予防的治療不足により抜歯を余儀なくされています。修復治療に報酬を与え、予防的歯科治療を支援しない政策がこの傾向を促進してしまうのです。
歯科医療における高度先進技術は、天然歯列を可能な限り長く保持するという目的を達成する上でどのような役割を果たすと思いますか?
高度先進複合技術は、トラウマを負う患者、または重症疾患や遺伝的劣化が認められる患者に制限されるべきです。医療制度は広く一般の人々に対してこれらの技術を提供することはできません。よって、これらの膨大な費用を要する技術は、医療制度下では、特別に許可された人に限定されます。予防医療は、費用対効果の高い制度でもあり、個人と社会を苦痛と多額の費用から解放してくれるのです。
一般大衆への口腔衛生と予防の促進に関する、歯科医療の今後数年の主な課題はどのようなものだと思いますか?
今後の主な課題は、治療的介入ではなく予防的治療に基づいた全身的観点からアプローチする概念を導入することだと思います。
インタビューへのご協力、ありがとうございました。
出典:DT UK 2/2017
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