Dental Tribune Japan

歯髄保護

By Dental Tribune Japan
September 29, 2016

歯髄保護は不要なわけではない 1990年代初めまでのコンポジットレジン修復では、術後の代表的不快事項として、歯髄炎や歯髄壊疽などの歯髄障害が挙げられ、その主犯として、レジン自体、あるいは構成モノマーが有する歯髄為害性が考えられていた。対応策として、グラスアイオノマーセメントを裏層材として用いるサンドウィッチテクニックが推奨され1)、臨床応用されていた。現在、40~50歳代の先生方が歯学生のころには、教科書にも重要事項として記載されていたことを覚えている方も多いだろう。

一方、コンポジットレジン修復における歯髄傷害は、辺縁漏洩が主犯であることが次第にあきらかとなり2)、レジン接着システム自体も多大な進化を遂げている。10年間経過後も歯髄傷害を認めなかったという臨床論文も報告され3)、コンポジットレジン修復の安全性が認知されてきた経緯がある。
これに伴い、現在ではほとんどのコンポジットレジン修復症例において、歯髄保護を常日頃から意識し、かつ励行している先生は少ないであろうと推察する。いまやコンポジットレジン修復は、修復材自体に歯髄為害性がなく、熱伝導性も低いという特徴を有していることからも、辺縁漏洩を防ぐ歯質接着性が担保されれば、歯髄に対して優しい修復であるといえる。
しかし、他の修復法、たとえばメタルインレー修復の場合を考えると、線角・点角などの隅角部を明瞭化させた箱型窩洞で、かつアンダーカットが許されない外開きの窩洞が要求されること、金属ゆえの修復材料自体の良好な熱伝導性などを避けられないのが実状である。したがって、TPOに応じた歯髄保護は現代でも無視してよいわけではないことを念頭においていただきたい。

無痛的と無刺激的とは別物である
日本歯科保存学会編纂の『う蝕治療ガイドライン』4)にもあるように、う蝕検知液併用による罹患象牙質削除法は、過大な侵襲を与えることのないデファクトスタンダードな手法となっている(図1)。しかし、う蝕の進行形態であるう蝕円錐は、内開きのアンダーカットを呈する場合が多いにもかかわらず、メタル・メタルフリーを問わずインレー修復を前提とした場合は、外開きが必須ゆえの健全歯質切削が伴い、切削時の不快事項は不可避的になる。
したがって、インレー形成の際にはやむを得ず局所麻酔を併用することがある。しかし、局所麻酔は患者さん本人の感覚を無痛的にすることが可能だが、局所たる被形成歯面、とくに象牙質が受ける切削刺激は麻酔の有無とは無関係であることを忘れてはならない。
歯髄保護の第一歩は、「いかに刺激を与えずに形成するか」であるとはいえ、この刺激自体は形成時の摩擦熱によるところが大であるため、器具側と術者側双方の留意が必要となる(図2)。
たとえば器具側としては、エアタービンなどの注水冷却状態の確認や「切れ味のよい」バー・ポイントの使用が挙げられる。現行のエアタービンは、3点または4点注水によって形成面および切削器具先端を冷却するように設計されている。とくにダイヤモンドポイントの場合には、砥粒との摩擦によって切削を行うために、発熱に対して十分な注意を要する。いまを去ること50年以上前という高速切削黎明期に、すでに種々のバー・ポイントによる切削被害に関する報告5)があり、先人たちは警鐘を鳴らしてくれている。
また、術者側の留意点としては「フェザータッチの遵守」が不可欠となる。患者さんが形成時に痛みを訴えれば、どんな術者でもフェザータッチを心がける。しかし、局所麻酔下で患者さんが苦痛を訴えない状態にて形成する際に、無麻酔の状態とまったく同様のタッチで形成しているであろうか? 痛がらない=バーを強く当ててはいないだろうか?
これらはエアタービンのみならず、5倍速などの高速型マイクロモーターの場合にも同様である。高速型マイクロモーターはブレが少なく回転トルクが大きいことが特徴であるが、トルクに任せた形成を行ってしまう危険性があることは否めない。元来は、無麻酔下の生活歯、局所麻酔下の生活歯・失活歯の形成対象歯すべてを同じフェザータッチで形成を行うべきであるし、また、卒前時にそのような教育が行われているはずである。
試しに、自身のエアタービンを用いての形成時に「音」に注意してみてほしい。フェザータッチの場合には、空踏みのときとはさほど変化のない「キーン」という高周波音が聞こえ、タッチが強まり押し当てるようになれば回転数は低下し、形成音は低く聞こえていくはずである。この「音」を指標とする形成時のタッチコントロールは単なる経験則でなく、実験からタッチと形成音周波数の両者は相関係数約-0.9という負の相関を示したという報告 6)もなされている。自身の手技をいま一度振り返ってはいかがだろうか。
加えて、う蝕検知液を併用して過切削を避けることも重要である。形成時の歯髄腔までの距離、すなわち残存象牙質の厚みは、歯髄保護のための絶好の緩衝地帯となる。う蝕罹患象牙質中の透明象牙質など、「残せる部分」はブルシャイトやウィットロカイトなどのいわゆるう蝕結晶の析出により外来刺激を遮断してくれる(図3)。このように、歯髄からみれば象牙質は天然かつ最良の歯髄保護材であることを忘れてはならない。
一方、歯科で用いられている局所麻酔薬は、血管収縮薬であるアドレナリンが添加されている。それにより、奏効時間の延長、術野の出血量抑制などのメリットが得られているのだが、歯髄の貧血も同時に生じている。切削時の刺激によってダメージを受けた象牙芽細胞にとっては、回復のための血流確保が得られにくくなるという、局所麻酔のデメリットがあることも付記しておく。

メタルインレー修復における歯髄保護とは
水酸化カルシウム製剤を用いる覆髄、あるいはグラスアイオノマーセメントなど歯科用セメントを用いた裏層は、非接着性のインレー修復=メタルインレー修復の歯髄保護法として、従来より頻用されてきた。
使用される覆髄剤としては、水酸化カルシウム系、ケイ酸カルシウム系などの各種セメントがあり、これら覆髄剤の薬理効果は、積極的に硬組織添加を促進7)するために、前述の象牙質は最良の歯髄保護材であるという観点においても望ましいといえる。
しかし、歯科用合金の有する、歯質の約300~500倍という大きな熱伝導係数8)は、とくに修復物装着後の早期の歯髄に対する温度刺激の誘因となる。したがって、第三象牙質など、硬組織の添加促進を目的とした覆髄剤、断熱効果・補強効果を期待する歯科用セメントとを組み合わせる裏層法9)は理にかなった手法であり、メタルインレー修復における歯髄保護の王道といえる。
う蝕は、う蝕円錐を形成しつつ鋸歯状にも進行するため、う蝕を除去した部位は必然的に平面ではない複雑な形態を伴った立体構造を呈する。元来、メタルインレー修復は非接着性であることからも、平坦な窩底と窩壁から構成される箱型窩洞、点角線角の明瞭化が要求される。う蝕除去後に歯科用セメントで裏層を行い、セメント硬化後に窩洞形成を施して窩壁や窩底を整えることにより、要求される窩洞の要件を実現するという手法は一石二鳥ということになる。
裏層用には古来よりリン酸亜鉛セメントが頻用されてきたが、現代においてはグラスアイオノマーセメント、なかでもレジン添加型グラスアイオノマーセメントが一般的かつ有用である。本セメントは、グラスアイオノマーセメント全般に共通するフッ素徐放性という、歯髄保護としても有効な点に加え、光照射により硬化が得られ、感水性が低いという特徴があり、セメント硬化後ただちに注水下で窩壁や窩底を整えることが可能となる(図4、5)。ただし、象牙質接着強さや辺縁封鎖性の担保10)のために、ポリアクリル酸水溶液などによる適切な歯面処理を行うべきである。

メタルフリーインレー修復における歯髄保護とは
メタルフリーインレー、たとえばコンポジットレジンインレーは、1990年代から広く応用されるようになったが、その黎明期では装着直後の一過性の咬合痛や冷水痛などが10~20%発現したという報告11)がある。またセラミックインレーでは、チェアーサイドCAD/CAMシステムであるCERECによる修復に関して、1986~1997年の29編の論文からのシステマティックレビューにより、0.5~13%の術後歯髄刺激が報告されているという12)。
これらは過去のレジンセメントの接着性の不十分さが影響しているといえ、その後の歯質接着技術は進化を続けてきている。現代においては、高品位の歯質接着性が得られるレジン接着システムを用いて行うレジンコーティングによって、歯髄保護を行うことが推奨される。レジン接着システムとフロアブルレジンなどの低粘性レジンを用いて印象採得時にすでに象牙質が保護され、その後の仮封時にも歯髄に悪影響が及ぶことが少なくなる手法である(図6~10)。さらに、レジンセメントによる接着強さ増強13)、修復物の適合性向上14)、さらに咬合荷重負荷時の接着耐久性向上も期待できる15)とされている。
図11にコンポジットレジンインレーの約10年経過症例を示す。矢印の部分が一部破折しているが、温度刺激や擦過によっても一過性疼痛がない。もちろん生活歯であるが、印象採得前のレジンコーティングも効果的であったと考えられる。本症例は、破折部にコンポジットレジンによる補修修復を施して、問題なく経過を辿っている。

これからの歯髄保護
近年、多大な進歩を遂げつつある再生医療によって、歯髄組織を再生させることも可能ではあろうが、臨床的に罹患した歯髄を除去して再生させた歯髄組織を移植させるという治療が一般的になるには、さまざまな障壁が予想される。となれば、不変的な脆弱さを有する歯髄自体をまずは健全なまま保護するのが、現在もそして近未来的にも臨床家としての第一歩ではないだろうか?
一方、使用材料も日進月歩の進化が続いている。たとえば、MTAセメントは歯内治療時の歯根部穿孔への塡塞用だけではなく、1996年ごろより覆髄剤としての応用が始まっている16)。最近では光硬化型の製品も開発され、今後の幅広い応用が期待される。また、改良したレジン接着システムを用いて、積極的に直接覆髄を行えるようにしようという試みも報告されている17)。無論、われわれ臨床家の手技の向上が必須条件ではあるものの、このように臨床家の助けとなる新しい器材開発も続いていくものと考えられ、チェアーサイドでの選択肢が増えていくと予想される。

【参考文献】

  1. McLean JW, Wilson AD: The clinical development of the glass-ionomer cement. 2. Some clinical applications. Aust Dent J, 22: 120-127, 1977.
  2. Bröannström M, Nordenvall KJ: Bacterial penetration, pulpal reaction and the inner surface of Concise Enamel Bond. composite fillings in etched and unetched cavities. J Dent Res, 57: 3-10, 1978.
  3. Akimoto N, Takamizu M, Momoi Y: 10-year clinical evaluation of a self-etching adhesive system. Oper Dent, 32: 3-10, 2007.
  4. 日本歯科保存学会(編):う蝕治療ガイドライン 第2版.永末書店,京都,2015:59-68.
  5. Stanley HR, Swerdlow H: Reaction of the human pulp to cavity preparation: Results produced by eight different operative grinding techniques. J Am Dent Assoc, 58: 49-59, 1959.
  6. Sun H, Lau A, Heo YC, Lin L, DeLong R, Fok A: Relationships between tissue properties and operational parameters of a dental handpiece during simulated cavity preparation. J Dent Biomech,4: 17587360134833747, 2013.
  7. Leye BF, Gaye NF, Kane AW, Benoist HM, Farge P: Evaluation of MTA versus Dycal in the formation of a dentin bridge: a randomised controlled trial. Int Dent J, 62: 33-39, 2012.
  8. Powers JM, Wataha JC: Dental materials: properties and manipulation. 10th ed, 16-17, Elsevier, St Louis, 2013.
  9. 千田 彰,寺下正道,寺中敏夫,宮崎真至(編):保存修復学 第6版.医歯薬出版,東京,2013:122-124.
  10. Bayrak S, Sen TE, Tuloglu N: The effects of surface pretreatment on the microleakage of resin-modified glass-ionomer cement restorations. J Clin Pediatr Dent, 36: 279-284, 2012.
  11. 勝山 茂,大塚 仁:コンポジットレジンインレー その適応と術式/臨床成績.the Quintessence, 9:25-36,1990.
  12. Martin N, Jedynakiewicz NM: Clinical performance of CEREC ceramic inlays: a systematic review. Dent mater 15: 54-61, 1999.
  13. Magne P, Kim TH, Cascione D, Donovan TE: Immediate dentin sealing improves bond strength of indirect restorations. J Prosthet Dent, 94: 511-519, 2005.
  14. Jayasooriya PR, Pereira PNR, Nikaido T, Burrow MF, Tagami J: The effect of a resin coating on the interfacial adaptation of composite inlays. Oper Dent, 28: 28-35, 2003.
  15. 前野雅彦,山田 正,奈良陽一郎:CAD/CAMセラミックアンレー修復の接着 ─象牙質レジンコーティングが窩洞内接着強さに及ぼす効果─.接着歯学,32:77-87,2014.
  16. Kato C, Suzuki M, Shinkai K, Katoh Y: Histopathological and immunohistochemical study on the effects of a direct pulp capping experimentally developed adhesive resin system containing reparative dentin-promoting agents. Dent Mater J, 30: 583-597, 2011.
  17. Ford TR, Torabinejad M, Abedi HR, Bakland LK, Kariyawasam SP: Using mineral trioxide aggregate as a pulp-capping material. J Am Dent Assoc, 127: 1491-1494, 1996.

 

「修復と補綴のLongevity」(デンタルダイヤモンド社)
日本歯科大学生命歯学部 接着歯科学講座
柵木寿男 前野雅彦

 

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